フォルカー・シュレンドルフが1979年に映画化した『ブリキの太鼓』は、ドイツの作家ギュンター・グラスが書いた長編小説だ。
過去に一度観た記憶があるが、オスカーが3歳で成長を止めたこと、金切り声を上げてガラスを割る、という超常現象が印象に残っているだけだった。
とにかく、オスカーの子役の鬼気迫る不気味な演技が印象深いのだ。
で、今回改めて鑑賞し直すと、ダンツィヒ自由都市におけるナチ党政権設立、占領、その後を描いていて割と暗い戦争映画であるということが分かった。オスカー目線でサラッと描いているけれど、結構悲惨なことが次々に起こる。時代的要素半分、オスカーの悪魔的策略半分といった具合に。
特に印象深いシーンを2つほど記しておく。
ナチスの演説会場で、マーチングバンド隊が高らかにファンファーレを演奏するのだけれど、オスカーが演壇の下へ潜り込み、太鼓を叩いてリズムを掻き乱し、遂にはワルツに変えてしまう。今まで敬礼していた群衆たちが、2人一組で踊り出すシーンは見ていて圧巻だった。
それから、教会でのシーン。告解している母を余所に、オスカーは祭壇へ上り天使の像に自分の太鼓を掛け、バチを持たせ「ほら叩いてみろよ。万能なんだろう?」と問いかけるシーン。こんな不安定な世の中なのに、神は何もしてくれないじゃないか、と言っているよう。
他にもグロテスクでちょっとトラウマになりそうな、海辺で馬の頭を使って漁をするシーンとか、未成年者であるオスカー役の俳優が性的な描写を担っていたりするシーンは、観ているこっちまで嘔吐反射してしまいそうだった。当時は問題となり、某国では未だに上映禁止だとか。
何はともあれ、戦争の暗い部分は私たちの心に大きな傷を残すし、愛する者を悪意ある策略で次々と不幸へ陥れるオスカーが、最後に己を庇護する者がいなくなり、絶望を以て成長を始めるシーンに、抵抗してきたことへの降伏なのかな、と思った。