梅の花名前を呼ばずとも香り
まだ知恵を持たぬ蛇なり穴を出づ
素顔なる職業夫人春の土手
おみならの声こえコエや若葉冷
夏の霧欲しいのはただ未来だけ
染みつきて取れぬ怒りや青嵐
一筋の滝でありたし頬に風
岐れれば交わらぬもの夏の川
赤紙のうすくれないや秋の声
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寅子の兄に続いて夫・優三にもついに召集令状が届いた。
出征前の優三の、「好きなように生きて、人生を全うして」という言葉、とくに、「いい母でいてもいい」という部分は、裏を返せば世間一般の「良妻賢母じゃなくてもいい」ということで、「いい母であらねば」と知らず知らずかけられていた呪いを可視化されるようだった。