13時、昼休憩。
今日は弁当を忘れた。
厳密に言うと、昨日ご飯を炊き忘れた。
基本的に食欲がない。
しかし1か月のうち1週間ほど、異様に腹が減る厄介な期間もある。
食べた側から空腹感。非常に燃費が悪い。出来れば一度の食事で1ヶ月くらいもってほしい。
それから基本的に食事が面倒くさい。何を食べても限界効用逓減。周りの言う「忘れられない味」「もう一度食べたい味」的なものが自分には無い。
そもそも食事なんて、その一瞬が、そのひとときが豊かであればそれで良いもののはずなのに、そんなところにまで効率やそれなりの充足感を求めてしまう。
一人暮らしを始めた頃はいろんな料理を作っていたし、それが楽しみのひとつだった気もするが、最近は1日ご飯1杯。たまに味噌汁。なんとなくまとめ買いして賞味期限が切れたふりかけを淡々と消費する生活をしている。何も食べない日もある。不摂生オブ不摂生。
冒頭で弁当、などと見栄を張ったが要はふりかけご飯である。
気づけば、そんな身体が受け付けないものが年々増えていく。
そんな杜撰な食生活ゆえ、昼ごはんはなくても良いっちゃ良い。
会社近くのスーパーへの道すがら、ぼんやり考える。
帰ってからご飯を炊けば良いか。ただ、浸水してないのがちょっと悔やまれる。
そもそもダンボールをリサイクルステーションに出すのが目的なので、それを済ませたらそのまま戻っても良かった。
良かったのだが。
なんとなくスーパーに立ち寄り、そのまま店内を適当にふらつく。
そういえばスーパーに来るのも久しぶりだった。
見切り品のパンとかあったらそれを買ってもいいか。
適当に理由をつけてパン売り場に向かう。
途中、惣菜売り場で目に留まった、タマゴ、ハム、チーズのサンドイッチ。
265円、10%引きシール付き。
30円弱引かれたとしても、普段なら手に取るのを躊躇う値段。
暫し逡巡する。
だが、普段おとなしい腹の虫はそれが気になるらしい。
しょうがないな、と手に取ってやった。
セルフレジRTAして会社に戻る。
手を洗う。
サンドイッチの前で手を合わせる。
第一関門、真ん中を引いて左右に開ける包装。
この手のやつ、なんかうまく開けられない。
おにぎりもそう。
左右の袋を引き抜いたら、そのどっちかに千切れた海苔が取り残される。いやそこはついていけ、諦めるな。
海苔を責めるな、お前が悪い。
マジックカットにも敗北する。
「どこからでも切れます」がどこからも切れない。残機ゼロ。ハサミを使う。切ったのに中身が一向に出てこない。
何がいけないんだ。
お前はいつもそうだ。
お前はいつも失敗ばかりだ。
誰もお前を愛さない。
話が逸れた。
通常運転。
ご愛嬌ということで許されたい。
ど̶う̶せ̶み̶ん̶な̶と̶っ̶く̶に̶ブ̶ラ̶ウ̶ザ̶バ̶ッ̶ク̶で̶離̶脱̶し̶て̶る̶だ̶ろ̶う̶し̶い̶い̶だ̶ろ̶。̶
しかし本日のゲストはメディア露出が滅多に無いお客様だ。
タイトルにも書いちゃったし、サンドイッチさんの話に戻ろう。
歪な開き方になった包装にちょっとモヤっとしながら、仲間を引き裂かないように指でパンを分ける。
昔、この作業に失敗してサンドイッチのアイデンティティを奪ってしまったことがある。
どこからどこまでが一つのサンドイッチを成しているのか、断面じゃない方を見るとわからなくなる。
サンドイッチ目サンドイッチ科タマゴサンド属と、サンドイッチ目サンドイッチ科ハムチーズ属との境界はどのパンなのか。
パンとパンを摘む。引き出そうとする。
いや待て、とちょっと迷う。
これだと薄すぎないか?表から見た断面の割に薄すぎないか?ひょっとしたらもう一つ隣のパンまでがタマゴサンド属なんじゃないか?
何故かそう思い至って、指を隣にずらす。
引き出したサンドイッチは1.5切れ。せめて2切れであれ。
そんなことあるか?と思ったかもしれない。
そう、そんなことはないはずなんだ。冷静になればそんな失敗はしないはずなんだ。
だってそうだろ。
サンドイッチの構成はパン→具→パンだろ。もう一回パンを経由して挟んだサンドイッチなんて見たことないだろ。
パンと具の間にワンクッション…パ̶ン̶ク̶ッ̶シ̶ョ̶ン̶入れてから挟むわけがないだろ。そもそも挟み損なうことないだろ。ちょっと保険をかけるな。
3切れ入りで、掴んだ分で一切れとするなら残ってるやつはなんなんだ。0.5切れってことになるだろ。そ̶し̶た̶ら̶そ̶れ̶は̶半̶ド̶イ̶ッ̶チ̶だ̶ろ̶。
だからいくら薄く感じてもそれが一切れなんだ。摘んだ両サイドがパンならその間にもうパンは挟まりようがないんだ。
指と指の間にあるパンが2枚で、なおかつその指に何も付着しないならそれが正解だ。信じろ。疑うな。余計な心配をするな。
学習を活かして、一切れを摘む。パンは2枚。サンドイッチは冒涜を免れた。
第二関門、
表面のビニールにいかに具を残さずに取り出せるか。無理だ、たまごはちょっと残る。
こいつらはきっと、剥がす前から包装とグルだ。一蓮托生だ。ズッ友だ。勝ち目はない。
もしかしたら、包装から引き出す取り出し方から間違っているのかもしれない。本来はポテチみたいに包装を全部開いて、囚われたサンドイッチを解放してやってから食べるのかもしれない。だが周りにサンドイッチを食べる人間がいないので確認のしようがない。
早く食べろ。そう思ったかもしれない。
仏の顔も三度まで。脱線も三度まで。あと一回猶予がある。
まだ離脱していない猛者がいるかもしれないし一旦戻ろう。
一口齧る。
あ、ちゃんとパンだ。めっちゃたまごだ。マヨネーズいるわ。
サンドイッチの断面から得た視覚情報と、久しく口にしていなかった味と香りと食感とが脳内で合致した。
うめえ。
ちゃんと味がする。
舌がまだ馬鹿になっていなかったことに安堵した。
続いてハムとチーズ。withレタス。
しっとりと、シャキシャキ。知ってるけど抜け落ちていた食感。
そういえばチーズ入ってるんだコレ。
見ただろ。パッケージに書いてあったろ。人間は愚か。主語を大きくするな。
乳糖不耐症というパッシブスキルを持っている。だがこの量なら大丈夫だろう。知らんけど。胃腸のポテンシャルにbetする。
栄養補給のための作業でしかなかったものが、なんとなく食事に昇格した。
気がした。
最後の一つ。アンコールタマゴサンド。
なんとなく、パッケージ裏面の食品表示を眺めながら頬張る。
消費期限、今日の24時。
もし本当に24時きっかりにダメになってしまうと仮定したら、24時の時点で口に入れていた場合の判定はどうなるのだろう。口に入れてさえいればセーフなのか、それとも胃に入れていなければアウトなのか。
もしくは、口に入れた時点で消費とみなされたアライブサンドイッチと、胃に入れていないので消費未完了とみなされたデッドサンドイッチとで口の中で重ね合わせ状態になるかもしれない。シュレーディンガーのサンドイッチ。
栄養成分表示。
サンドイッチ3つで結構カロリーあるんだな。311kcal。
でもそうか、たまご、ハム、チーズの三拍子だもんな。
いや、そうでもないか。杜撰な食生活を参照するな。
原材料名。
パン、卵サラダ、茹で卵、ハム、プロセスチーズ、マヨネーズ、リーフレタス。
ここまでは知ってる。
いや、うそだ。卵サラダっていうやつは知らない。お前は何者だ?細かくした卵とマヨネーズ和えてパンに塗るやつのことか?取り出すときにビニールにちょっと残ったやつのことか?
そのあとはホントによくわからない。
ケミカルな字面とカタカナの並び。あとVとかCとかのアルファベット。見たことはある名前もあるが詳しくは知らない。
死ぬ予定の奴が気にする必要は多分ない。
このサンドイッチに含まれるアレルゲン表示。大丈夫だ、でもチーズがちょっと不安。完食してから確認するものではないことは確か。
製造者の欄に、どうやら地元にあるらしい会社が書いてある。
なんとなく見覚えのある名前。おにぎりを買った時に見たのかもしれない。コレもこの会社が作ってるんだ、と思ったりする。
最後の一口を咀嚼して飲み込む。
歪な包装に手を合わせる。
ただ空腹を満たすのとは違う、別の充足感。
があるような気もする。
気のせいかもしれない。
だが、
また気まぐれな腹の虫が訴えたらサンドイッチを食わせてやろうと思った。
スーパーの惣菜コーナーで買った、10%引きのサンドイッチで死に損なった。
サンドイッチのアイデンティティを奪ったことがある人間は他にもいるのか。
サンドイッチの包装はどこまで開けるものなのか。
次も美味いと感じられるのか。
この後チーズの叛逆が起こらないかどうか。
それを確かめたくなってしまったので死に損なった。