日本の西側、広島県の三原市には日本一でかい達磨があるらしい。
三原市には足を運んだことがある。記憶に新しいのは兎パラダイスで有名な大久野島へ行く際、フェリー乗り場がある地域として立ち寄ったことがある。船の待合場で売られていたタコ焼きの蛸が衝撃的なほどデカくて感動したものだ。三原は蛸が有名と聞くが聞きしに勝る立派な蛸が入っており、あの贅沢感は中々その辺りで売られているタコ焼きには出せまい。
デカい蛸の話をするため記事を立ち上げたのではない。達磨の話をしよう。
近年コロナの影響で各地の祭りや市などの人が集う催しは未だ自粛に追いやられているものも多いが、最近は◌年ぶりに開催!という文字をニュースなどで目にすることも増えた。世の中が少しずつ以前の活気を取り戻しつつある。そんな中、今年復活すると耳にしたのが「神明市」。前々から『でかい達磨があるらしい』と耳にしていたため気になっていた。今年は4年ぶりの復活だそうで、それなら拝みに行くしかないなと三連休の真ん中を消費し建国記念日に三原へ着地。現在、金子の消費は抑えたいために悲しいがな宿泊はしない。
昼過ぎに三原駅に到着した。駅は人でミチミチになるほど混んでいた。黒山の人だかりとは正しくこうだと思いながら人混みに流され改札を抜ける。近くに住んでるであろう人の会話を耳にすると、この駅がこんなに混むのを初めて見たそうだ。みんな祭りに駆けつけたのだろう。活気があるのは良い事である。
駅を出たら既に屋台らしきものが多くあった。これが神明市…?と思うと近くにいたお姉さんがパンフレットをくれた。赤地に白抜きで描かれた「みはら神麺市」の文字。駅前には神明市とかけて麺類の屋台が大集合していた。これは素敵な。素敵だったが私の目的は達磨である。美味しそうに麺を啜る人々を横目に、多大なる誘惑を打ち払いながら向かうべき場所へ足を向ける。目的の達磨を拝まねばならん。
三原市関連のHPに示されていた場所と地図を頼りに歩くこと約5分。私は静かな通りに案内されていた。駅で見た人混みはどこへ消えたと不安になるほどであったが、私が最初に向かったのは神明市ではない。実は市と同時開催で「DARUMART2024」というアート展も開催されていた。駅前で頂いた朱いパンフレットには神麺市ともうひとつ、このアート展も紹介されており、そこから文言を引用すると
”三原の民芸品「三原だるま」をキャンバスに、国内外のアーティストや市民の皆さんが制作したアートだるま、約300体を展示"
だそうだ。展示の存在は駅前調達パンフで初めて知ったが一気に興味を惹かれた。だるまのアート、行くしかあるまい。場所はコワーキングスペースaricaという、神明市の通りの西端からちょっとだけ離れた所にあり、会場に選ばれた建物は達磨展示におあつらえ向きな趣のあるものであった。神明市とセットだとばかり思っていたから賑やかな祭りの場を想定していたが、そこは想像よりずっと落ち着いた雰囲気で私を迎えてくれた。
建物に入って物売り場の奥、2階へと進む階段をあがると、そこにはズラリと並んだ達磨たちが机に行儀よく鎮座していた。手の平サイズでありながら約300あるという達磨がこうも並ぶと圧巻である。登った2階の入り口に案内の人がおり、投票紙を渡して説明してくれた。どうやら300ある達磨の中から自分の気に入ったイチオシ達磨を見つけて投票する催しを行っているようだ。達磨たちにはそれぞれ作品名、作者名の他に番号が振られていた。用紙には3体まで番号が書ける仕様になっている。
作られた達磨たちはどれもこれも光る物があり逸材だらけであった。気になった達磨をつぶさに説明すれば文章が神明市へたどり着かないため詳細は割愛するが、本当にどれもこれも素晴らしかった。撮影可だったために当然のように達磨撮影会をしつつ、3体選べという楽しい投票イベントが鬼の所業にすら感じながら何とか投票を完了した。言い値で頂戴したい達磨がいくつもあった。達磨を眺めながら会場をウロウロしていると展示品に紛れて来場者数をカウントするカメラ達磨の存在に気づく。前を何度か通ってしまったため人数を惑わせていたら実に申し訳ない。いや、もしかしたらあれも作品だったのかもしれない。個性的な作品が多すぎてもはや分からない。実際カメラを携えた達磨作品もあったし。写真をネットに上げるのは悩ましいが画像が無いと何を言ってるか分からないと思うので、参考になりそうなページを紹介しておく。
個性的な達磨が多く実に楽しい時間を過ごした。いつまでも居たかったが自身の目的を遂行するべくユニークな達磨たちと別れを告げ会場を後にする。日本一の達磨を拝みに再び目指すは神明市。勇んで向かい約2分、市の端に到達した。先ほどの空間とは打って変わって雰囲気が一変し、駅で見た黒山の人だかりと無事再会を果たした。
そこは、ゆうに1㎞はあるであろう通りを確保し屋台がズラリと勢ぞろいした空間であった。右に屋台左に屋台、その間には人の山。正に祭の雰囲気そのものである。しかし多い。人がすごく多い。知っていたがそれにしても多い。普段から人の多い場所は避ける傾向にあるため、人混みに紛れるのは本当に久しぶりだった。屋台独特の美味しい匂いを浴びながら日本一の達磨を探す。
歩きながら周囲を見ていると縁日屋台に紛れて達磨たちも売られていた。三原の達磨を私の達磨コレクションに加えたいと思い、人の隙間を縫って販売場所へ向かった。が、三原達磨は手作りのために数が少なく、三日開催の神明市、その最終日の午後である今現在は既に売り切れていた。今ある達磨はほぼ高崎だるまであるという。高崎、さすがだぜ高崎。高崎さんちの達磨は既にいるので連れ帰ったら喧嘩するかもしれない。今回は見送る。
祭りの屋台は食べ物の他、クジや射的、金魚すくいにお面と様々なものが並んでいた。最近流行りのアレやコレも多く、屋台の醍醐味であろうギリギリを攻めた商品を眺めては流れる雰囲気に押され引かれ市を進む。進みながら思う。目的である日本一の達磨がぜんぜん見当たらない。噂によれば、日本一大きな達磨は神明市の東端に立つ大きなゲートの上に鎮座し、市の賑わいを見守っているという。
ならば中々目にできないのは当然だ。私は西端から市入りしたのだ。つまり日本一の達磨を拝むには本当に市を端から端まで横断せねばならない。歩け私。人波に乗ってずんずん進め。
東端へ向かいながらも、屋台の所々で売られている達磨販売所を見かけては立ち寄り三原達磨の情報を収集した。どこも完売、色よい返事はもらえなかったが、道の駅、もしくは駅の観光案内所で普段から販売しているとの情報を得る。本日は売り切れだろうな。と思っていると、ひとつの達磨販売所が目に留まった。高崎だるまにしては顔が違うな。手作りの雰囲気も漂う。これはもしや三原達磨であろうか。ドキドキしながら売り子の人に尋ねる。否、瀬戸達磨であった。瀬戸て。愛知でねえか。愛知の達磨もおわすとは。可愛いのでお持ち帰りした。高崎さんと仲良くしてくれると良い。
なんだかんだ市を楽しみ進んでいると遠目に存在感のある朱が見えた。人混みなんぞ関係ない、歩く道よりトンと高い天空に鎮座しこちらを見降ろすその巨体。奴だ。例の達磨がついに姿を見せた。嬉々として達磨の方へと寄って行く。遠くでも存在感があったが近くに行ったら改めてその大きさに驚いた。立派な眉に立派な髭に、堂々描かれた日本一という腹の文字。門の上であるため近くといえど多少の距離はあったが、それにしてもこの大きさ。立派な日本一の達磨がそこにあった。後に知ったが達磨は地上から4.5mの高さに置かれ、姿は高さ3.9mの胴回り2.9mで重さは500㎏の4代目(2024年現在)だという(神明市パンフレット参考)。これが見たかった。この達磨をみるべく私は三原へ来た。私はついぞ当初の目的を果たし、満足したので帰路に着く。
駅に戻り、達磨売り場で得た情報を頼りに観光案内所へ向かう。三原達磨はやはり売り切れていた。受付の人が神明市のパンフレットを差し出し、頃合いを見て電話で在庫を確認することを勧めてくれた。1ヶ月2ヶ月先には普通に買えるようになるだろうとの予測だ。またその頃に訪れようと思い、御礼を言って外に出る。と、通り雨がザパっと降っていた。駅にいるときに降るとは中々にお優しいなと自然に感謝しながら帰った。
今回の収穫は小ぶりの瀬戸達磨である。広島県の三原市で愛知県の瀬戸達磨を買う。これもまた面白くて良いのではなかろうか。そして達磨アートの場で販売されていた達磨のポストカード。展示の横でささやかながら物販もあったので購入。ちなみに達磨アートの投票結果はインスタグラムにて発表されるとのことで、こちらもまた楽しみである。今日は達磨のことばかり考えた1日であった。そのため私の好きな三原のタコ焼きを喰い損ねていたことに帰ってから気づいて膝から崩れ落ちた。次回は三原達磨とタコ焼きを目当てに訪れたいと思う。