鍼灸院に通い始めて3回目の通院日だった。昨年12月からずっと不調で起き上がれず家にも閉じこもりがちで、失礼な話藁にもすがる思いで行ってみたのだが、なんとなく調子がよくなってきている気がする。睡眠計測アプリで「深い睡眠」の時間が増えている。初回で触診のあと鍼灸師の先生に「自律神経のバランスがめちゃめちゃに狂っている状態です」「鍼ではこのイカれた自律神経を…」と説明され、「狂う」「イカれる」って言葉は最近めっきり聞かなくなっているからなんだか新鮮だなと思った。休む時活発になるはずの副交感神経が優位になりすぎており、いわば「ブレーキ踏みっぱなし」状態とのこと。
治療のメインは鍼だが、ちょっと時間が余るとウォーターベッドに乗せてくれる。何かに効くものではなくてマッサージが目的らしい。本当に水が詰まっているような感じで寝そべるとぼわんぼわんと体が揺れる。助手の人がスイッチを入れて、するとウォーターベッドの中を2つの揉み玉が震えながら左右対称に走り回り、足から腰を通って背中、肩、首あたりまでをもみほぐすという仕組みだ。それを10分くらいやる。へんな装置だなあと思う。振動も一定ではなくて、最初はうるさく走り回っているが、後半あたりから急にトトトトトトトトと弱まり、またドドドと猛烈に始まったりする。緩急をつけているのだ。揉み玉にあやされている気分になる。体は叩かれ続けてベッドの上で揺れているので、だんだん自分が日本列島になったような気がしてくる。揉み玉は日本を通り過ぎていく台風か低気圧である。身じろぎして関節を鳴らせばそれは地震だ。
坂口恭平『自分の薬をつくる』を読む。ワークショップを文字起こしした形式で終始話し言葉なので、抑うつっぽい状態でもするする頭に入ってくる。まだ途中だがメッセージは明快で「自分の日課を作りだすことが薬である」というものだ。躁鬱病を持つ著者は一日の流れをほぼ固定し安定化をはかっているという。そして起床してすぐの頭が一番働く時間を執筆にあて、1日10枚の原稿を書くのだそうだ。魅力的な話だ。私はよく次に何をしようかと考えた途端に大小のタスクが目の前で30個ぐらい同時に展開してパニックになってしまい、落ち着くためにアプリゲームやラジオを聞いたりし始めて気づくと何時間も経っていることがあるので、その時間に何をやるのかあらかじめ決まっていたらいいだろうなと思う。一方でどこかでダ・ヴィンチ・恐山が言っていた「生活はジャズ」という考え方、というか半分くらい開き直りだが、それにもうなずくところがあって、「食べたくなったら食べる、やりたいだけ仕事する、寝たくなったら寝る」というスタイルは私の本来の性分に合っていると思う。でもこれはこれで健康を保つだけの食事や睡眠ができなかったり、文章を書くにしても好き勝手新しいアイディアに取り組んではまた放り出したりするので、これだといつまで経っても何も書ききれないという問題もある。同じ逡巡が小説でも起こっていて、「何も考えずに最後まで書ききってしまおう」と「物語作法に則った確実に面白いプロットを最後まで組み上げてから書こう」の間をほぼ1ヶ月ごとに行ったり来たりしている。そしてどちらもうまく行っていない。どうしたらいいんだろうか。「日課は薬」と「生活はジャズ」を1週間ずつ続けてみて実験をしようかしら。