2024/02/19 爆弾低気圧の日

hachimoto8
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名古屋と碧南市を歩き回っていた時は体の底から力が湧き上がってくるようで、「ようやく冬季うつを抜けたぞ、これからドンドンものを書くぞものをつくるぞ」と勇ましく歩き回っていたのだったが、京都の自宅に帰って一晩寝たらそんな気分は霧消してしまった。たぶん爆弾低気圧というやつで、しっかり寝たのに眠くて眠くてたまらない。世界がぼーっとけぶっているみたい。全身の血が煮凝りになったようで、心臓が生きながらに止まってしまったのではないかと不安になる。浮かんでくるのはあぶくのイメージ、自分自身がこの世界から一つの大きな泡で隔てられているような感覚であり、自分の息も小さなあぶくになってそこらを漂っているようだ。布団から起き上がれずに海底に沈んでいるような感じ。そういえば名古屋ではしょっちゅう喫茶店に入ってコーヒーを飲んで、元気に動き回っていたなと思って、昼近くになってようやく起き上がり、もらいもののドリップコーヒーを丁寧に淹れた。

ドリップコーヒーを丁寧に淹れたい。どうやればいいか考えて、キッチン用の電子秤を使うことを思いついた。いつもは適当に淹れて濃かったり薄かったりしているが、コーヒーはきちんと湯量と水温と抽出時間をコントロールすれば誰でもおいしく淹れられる、と何かで読んだ覚えがある。一番大きな要素は湯量だろう。秤にマグカップとドリップバッグを乗せて、重さを計りながら淹れればよいのではないか。なんというシンプルな解決法。なぜ今まで思いつかなかったのか。おいしい淹れ方を検索して、豆の重さの16倍の湯を2分かけて落とせというアドバイスを見つけた。計りながら淹れてみると満足のいく味になった。

カフェインが頭に回りだすと、少し気分がよくなった。そういえばこの秤不良品なんだよな、これって交換してもらえるんじゃないかな、とひらめいた。この電子秤は昨年の10月に楽天の通販で買ったのだが、最初から桁数が狂っていたのだ。どういう仕組みの不具合なのかわからないが、正しい重さの10分の1のグラム数が表示される。さっきコーヒーをきちんと淹れられたのは頭の中で数字を補正したからだ。桁数がおかしいことを知ってさえいれば実用に耐えるのでそのまま使っていたのだが、やっぱり不便だし面倒くさい。調べてみると1年保証がついていたので、業者のLINEアカウントに連絡してみた。不具合のため交換したい旨と、注文番号と、秤に電源を入れて500玉を乗せると0.7グラムと表示される動画を送ったらあっという間に交換品を送ってもらえることになった。もちろん500円玉が1円玉より軽いわけはなく、7グラムが正しい数字だ。なんだ、こんな簡単なことだったんだと拍子抜けした。その後なんとか家を脱出して少し仕事を進められたが、コーヒーを飲んでから交換の手続きをするまでの間がこの日もっとも頭の冴えていた瞬間だった。本当は仕事をバリバリ進めたり小説を書いたりしたかったけど、名古屋にならってコーヒーを飲もうと思ったところから思いがけず塩漬けになっていた秤の問題が解決した。こういうのも僥倖に数えていいんだろうか。

@hachimoto8
なるべくしょっちゅう書く/始めないし終わらない/これで完成でいいや