2024/05/26 全興寺遊戯祭

hachimoto8
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公開:2024/5/27

午後から出かけて大阪市平野区の全興寺遊戯祭に行ってきた。毎月のまちのひ朗読舎でお世話になっているイルボンさんが大所帯非楽器アンサンブルPOLY!、インドネシアの影絵芝居ワヤン・クリを上演するマギカマメジカに出演されるということでチラシをいただいたのがきっかけだ。大阪出身だけど記憶にある限り平野で降りるのは初めてだった。大阪らしい下町を通り抜けて全興寺へ向かった。途中光源寺幼稚園という幼稚園の前を通りかかり、今源氏物語を読んでいるので「プレイボーイの英才教育を行う幼稚園かな」と思った(めっちゃ言われてそう)。

全興寺は面白いお寺だった。西の門前にまわると「ウソをつくと舌をぬくぞ 全興寺地獄堂」とある鬼がやっとこを構えた看板や、「のぞみはないがひかりはある」という子どもの手になる書に出迎えられた。すでに人が大勢あつまり、リハーサルなども行われていた。破格に安い入場料千円を払って入った。

パフォーマンスが始まる前に境内を見て回った。都会のお寺としては広いかな、という程度だが色んな施設があり、それぞれにエンタメ感があって面白い。極楽だけでなく地獄もひっくるめた仏教観を現代に伝えるために、さまざまな趣向が凝らされていると感じた。たとえば表の看板にもあった地獄堂では生前の行いを裁く閻魔大王の恐ろしい像がこっちを睨みつけており、両脇には他の裁判官(十王というやつかな)や、奪衣婆などが控えている。これは本来入場チケットが必要なところ、帰り際に特別のぞかせてもらったものだ。注意書きには子連れの人に向けて「命の大切さを考えるためのものなので、『言う事を聞かないとこうなる』と脅しに使うのはやめてください」と書いてあった。地獄みくじもあるらしいがこの日は残念ながら授与所が閉まっていた。地獄があれば極楽もある、ということで地下には「ほとけのくに」が設えられており、四十八ヵ所の砂を詰めてつくった謎にありがたい手すりのついた階段を下っていくと、曼荼羅のステンドグラスを床に配した瞑想空間が広がっていた。他にも「頭を突っ込むと地獄の釜の音が聞こえる穴」や「涅槃像の下描きがほどこされた仏像の原石」はたまた「駄菓子博物館」などもあって見どころが多かった。住職の話によると、全興寺は飛鳥時代に聖徳太子がひらいたお寺と言われており、今の大阪市都心よりずっと昔から門前町が栄えていたのだという。またかつては町に3つの芝居小屋があり、うち1つは現在の境内にあったとのことだった。そう聞くとこのお寺のある種のケレン味にも納得がいく気がする。

パフォーマンスはASAの「夜が来る」で始まった。小林亜星が作詞した歌なのだそうだ。ちょうど日没の時間でぴったりの歌だった。

大所帯非楽器アンサンブルPOLY!は日用品を使って音を奏でる集団である。今回は紙でできたつばめのおもちゃがパラパラと空を切る音から始まった。棒の先に糸とつばめの形の紙、音を鳴らす紙がついた愛知県の民具で、田んぼの鳥よけかなにかが元になっているという。西門のあたりに人が入れそうに巨大なビニールボールが出現し、メンバーがめいめいにしばいて音を出す。単純にバシッバシッと叩いていたところから、タイミングを図ったり音をあわせたりするようになるのが面白い。口をあてて声をボールに反響させたり、水をかけ物でこすって甲高い音を出したり、ひとつのボールからこんなに多種多様な音が生まれるのかと驚いてしまう。観客も参加してよいことになっていて、私も途中で思わず駆け寄っていった。イルボンさんに長いスプリングを手渡され、一緒にこすりつけて音を出して非常に楽しかった。電動歯ブラシをテープで張り付けてスイッチを入れると、ブブブブという振動がボールに響いて耳を当てると頭の中をいっぱいの蜂が飛ぶようだった。最後にボールのジッパーを開き、球がへにゃりと崩折れてパフォーマンスを終わった。

座席を組み替えるなどして休憩ののち、次はマギカマメジカの影絵芝居である。インドネシアの影絵芝居ワヤン・クリのことはみんぱくの展示で何度も目にしていて、いつか上演を見たいと思っていた。これは棒と関節をつけて動作ができるようにした紙人形を使って演じられるもので、観客と操者の間に白い幕が張られており、幕の後ろに焚いた火や明かりに人形をかざすようにして動かすと、幕に大きな影が映るのだ。みんぱくで見た紙人形は切り絵のように細かな穴が開き、影になった時大きな効果を生むよう作ってあるのが印象的だった。今回マギカマメジカが上演するのは古典落語「地獄八景亡者戯」の翻案である。サーカスの軽業芸人でお調子者のプジョが綱渡りの芸をやっている途中に落下して命を落とし、女の姿をした妖怪に誘われて寄り道をしすぎて閻魔大王を怒らせてしまい、地獄に落とされるものの猛獣地獄・火の玉地獄・肥溜め地獄・人食い鬼地獄のいずれも持ち前の知恵と軽業で切り抜けて、とうとう嫌気がさした閻魔大王に地上へ送り返されるというストーリーだ。すべての登場人物を一手に引き受けるイルボンさんの情緒たっぷりでコミカルな演技と、ガムランやおもちゃのような楽器とコーラスによる伴奏・効果音、ユーモラスで時には鋭い音を立ててぶつかりあうダイナミックな操演とか合わさって本当に本当に面白かった。特に興味ぶかいのは、ほぼ全編に渡って影絵で登場する紙人形に顔や服装が細かく描き込まれていて最初は幕の前に登場するが、プジョが死んだ後は幕の後ろにまわって影となり、最後に生き返る場面でまた幕の前に現れるという点だ。つまり影絵を投影する白い幕が生の世界と死の世界の境目になっているである。ちなみにプジョを地獄に落とす閻魔大王は幕の前に登場するが、懐中電灯で照らされて幕にも影が映る。前述した地獄を教える全興寺という場所も相まってぴったりの演目だった。小さな子どもの中には怖がって途中で退席してしまった子もいたほどだ。笑いどころの多いお話なのだが、影絵で大写しになる骸骨は化け物はそりゃ怖いだろうなと思う。

@hachimoto8
なるべくしょっちゅう書く/始めないし終わらない/これで完成でいいや