2024/04/13 緊張の匂い

hachimoto8
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取材仕事で疲れた。夕方遅めの時間に帰宅した。前後して同居人も帰ってきた。友人たちとクジャクを食べる会を催していたのである。標本にするために有害鳥獣駆除で捕獲されたクジャクをどこかから調達してきたようで、標本にしても肉は余るのでそのような運びとなった。レンタルスペースを借りてみんなで調理から片付けまでやったそうで、写真を見せてもらうと楽しい会だったらしかった。

しかしその時同居人の体臭がいつもと違うことに気がついた。酒を飲んだのかと聞いたが飲んでいないという。それではニンニクだろうと言うと生姜は使ったがニンニクは使っていないという。クジャク特有の脂か何かの匂いかとも思ったが、種類としてはそういう方向性ではない。酒を飲んだ翌日のアセトアルデヒド臭に近い、ツンとくるガスのような匂いだった。といってもかすかなもので、配偶者レベルの距離感でないと気が付かなかったかもしれない。

「なんか緊張してたんじゃない?」と私は言った。今日来たメンバーは同居人の古い友人と比較的新しい友人で構成されていて、この2つのグループは初対面であり、全員と知り合いなのは同居人ただ一人だったのだ。普段あまり幹事らしいことをしないのに、レンタルスペースを借りて準備もして、作業を取り仕切って、撤収時間が迫る中片付けまで終わらせたのだからさぞかし気を張っていただろう。会が楽しかったということと、楽しい時間を作るために緊張したということは両立しうる。心なしか声も大きくなっていて「ちょっと声を落として」と頼んだほどだった(これは私が疲れて聴覚が過敏になっていたせいかも)。

当てずっぽうで緊張の匂いでないか、と言ったのだが、後で検索して「ストレス臭」というものがあると知った。硫黄化合物を含んだネギっぽい匂いだという。ネギっぽいとは思わなかったがニンニクにも硫黄化合物が含まれており、方向性として近いので、やはりあれは緊張の匂いだったのだと結論づけた。

中井久夫がたしか『徴候・記憶・外傷』で精神科の入院病棟に特有の匂いがあると書いていた気がする。「不安感の匂いだ」と中井久夫は述べていた。ようやく治療につながった患者の初診でも同様の匂いを感じ取ることがあるという。人間の感情が汗などの分泌物に多様な影響を与え、医療者もまたそれを敏感に察知しているのだと推察できるエピソードである。

などと考えていたが今朝クジャク鍋の残りをもらったら長ねぎがたっぷり入っていたので、私は何もわからなくなってしまった。でも、髪や服ではなくて首筋や息からあの匂いがしたように思うんだけどな。真相はわからない。

@hachimoto8
なるべくしょっちゅう書く/始めないし終わらない/これで完成でいいや