2023年が始まって最初にしたのはオーディブルに登録することだった。すぐ飽きるかと思ったが移動中や家事中はほぼ必ず聴くようになり、1年間で67冊聴くことができた。そこで、聴いてよかった作品を10作ピックアップしてメモしておこうと思う。
なお面倒くさいので順位はつけないで聴いた順だし、作品の良さとナレーションの良さはごっちゃにして書く。
余談:この「本を聴く」って表現がどうもしっくり来ないけど、実際読んでるわけではないからどう言ったらいいのか困っています。
劉慈欣『三体』『三体Ⅱ 黒暗森林』上・下『三体Ⅲ 死神永生』
朗読ならめっちゃ長いのも聴けるなと思って聴いた。申し訳ないがSFのハード面が苦手なのだけど、文字だと一生懸命読もうとして疲弊していく部分が朗読だと「う〜〜ん、わからんけどなんかオッケー!」という感じで流れていくのがよかった。女性キャラがちょっと古いな…と思いつつ、アイディア盛り盛りだし各章を引っ張っていくドラマ部分はむしろベタに振っていてわかりやすかった。これはオーディブルで聴いてよかった。
川上未映子『乳と卵』
大阪弁がめっちゃいい!!ナレーターの野々村のんさんの朗読が素晴らしかった。おばちゃんのさばけた感じ、少女のぶっきらぼうな感じ、よく演じ分けられている。方言が出てくる朗読は方言が嘘だと興ざめだからな。若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』とか岩手の言葉で聞きたいけども。『夏物語』と合わせて聴いた。
佐藤究『テスカトリポカ』
日本でメキシコ人の母から生まれたコシモと、メキシコの麻薬カルテルと、アステカの神々の物語を織り交ぜて語る手腕が巧みで引き込まれた。そのあとみんぱくの特別展示「ラテンアメリカの民衆芸術」で作中に登場した神々をモチーフとした作品が見られたのも印象に残っている。
酉島伝法『皆勤の徒』
豊かな造語が魅力の作品なので、正直耳で聴くにはあまり向いてないと思う。けれど社長をはじめとするキャラクターたちがとても素敵で楽しかった。ミズスマシのいたいけさがすごく印象に残っている。
村田沙耶香他『絶縁』
アジアの若手作家による「絶縁」をテーマにしたアンソロジー。村田沙耶香「無」、アルフィアン・サアット「妻」、ラジャムジャ「穴の中には雪蓮花が咲いている」、グエン・ゴック・トゥ「逃避」がよかった。
アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』上下
めちゃくちゃ良かった!!作品と朗読の合せ技一本ではこの作品が一番良かったかもしれない。ナレーターの井上悟さんがとにかく素晴らしい。あの重要キャラがもうめっちゃかわいいのです。書籍で読んだ人にももう一度朗読をおすすめしたいくらい。
ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』
バスチアンと一緒に冒険した気になれた。作りだした作品世界で何を紡いでいくか問われるという意味で、これは小説家をはじめとするあらゆるストーリーテラーの物語だろう。緒方恵美さんの演技はいいんだけど、私にはちょっと演技が過剰だった。特にキンキン声や歌うような調子で話すキャラクターは鼻白んでしまうことがあった。おそらく児童文学としてチューニングされていると思われる。
アガサ・クリスティ『春にして君を離れ』
数年前に読んだ作品で、その時は身につまされすぎて泣きながら徹夜で読んだのだが、面白いことに朗読では少し距離をとって聴くことができた。朗読って朗読者の感情が乗るのでより没頭できるかと思いきや、自分で読むほどの一体感は得られないのだなとわかった作品だった。
上橋菜穂子『夢の守人』
子どもの頃読んでいた守り人シリーズを聴き返しているのだが、今のところ『夢の守り人』が一番素晴らしかった。昔読んだ時はタンダが乗っ取られたところがトラウマ過ぎてそこしか覚えていなかったのだが、トロガイ師の過去との向き合い方や、トロガイ師が最後に語る、精霊世界とつながる呪術師や歌い手ら社会の周縁に生きる者たちへの忠告も心に残った。これもまた突き詰めるとストーリーテラーの物語だと思う。
アゴタ・クリストフ『悪童日記』
『ふたりの証拠』『第三の嘘』含めてめちゃくちゃおもしろかった。語りは騙りなんやねということをいやというほど思い知らせてくれる作品である。いいな〜。こんなん書けたらいいな〜。ちなみに『ふたりの証拠』に出てくる、本を書こうとしていつまでも書けないアルコール依存症の文具店主人ヴィクトールが姉からぶつけられる痛烈な罵りは、創作に行き詰まっている全クリエイターが絶対に言われたくない言葉のオンパレードで、思わず笑い泣きしてしまった。
以上10作品。オーディブルは鬱っぽい時にも聴けるので加入してほんとによかった。来年もたくさん聴きたいものです。