夜、近所の人がやってきて同居人はいないかと言った。出張で不在にしていますがどうしましたかと返すと、ハクビシンがと言うのでついていくと、庭にハクビシンが横たわっていた。暗くてよく見えないが顔に怪我をしている。かろうじて息はしているようだ。話を聞けば近くの大通りを自転車で走っていたら目の潰れたハクビシンがくるくるとその場を回っていて、見ているとこちらに近寄ってきて見えない目をこちらに向けて立ち止まった、このままでは轢かれてしまうと思ってスーパーの買い物袋に入れて連れ帰ってきたという。その行動の是非はいろいろ議論のしようがあるけれども、一応は緊急保護という名目が立つだろう。動物好きな人なのだ。
大通りでそのまま轢かれてしまうことは避けられたが、率直にいって致命的な怪我で、たとえ山を越えたとしても目がつぶれているから自力で生きていくことは不可能に思えた。それで、ということでその人は、動物の剥製を作っていて年中新鮮な死骸を探している男こと同居人を思い浮かべたというわけだった。たしかにこのあたりでハクビシンはまだ珍しくて、昨年庭の柿の木に上っているのを初めて目撃したくらいである。
小さなカップに水などを添えてあったが口をつける様子もなかった。近くに寄ると怪我のためか生来のものか獣の匂いがむっと鼻にくる。朝になるとカラスなどに見つかるだろうということでその人と段ボール箱のフタを一箇所切り取って逆さまにかぶせ、覆いにした。どうせ今夜も眠れないのだし、と見回り役を買って出た。もし死んでいたら、私が代理としてビニール袋に回収して冷凍保存をする手はずだ(標本素材用の冷凍庫がある)。夜中に何度か見に行ったが時々場所がずれていて、我々お手製のカバーは気に入らないようだった。
一夜明けてこの日記を書いている現在、ハクビシンはまだ生きている。箱から逃げていたせいでさっきに2羽のカラスに見つかって、あやうくついばまれそうだったのを追い払った。死んだら新鮮なうちに回収しようと目論んでいる私も、彼らと同類なのだけど。