実家の猫が死んだ
病気だった
もうすぐ10歳だった
私が飼いたいと言ってやってきた猫だった
猫を飼うことに反対していた母が、なぜか一目惚れして飼うことになった猫だった
男の子だけど、ももと呼ばれていた
フルネームはももたろうで、だけどそう呼ぶのは病院のひとたちだけで、家族も、本人も、ももだと思っていた
ほとんど鳴かず、しずかで、おとなしい猫だった
窓際やソファの背の上でじっと日向ぼっこをしていた
そこから降りるときの、トンッ、という音で、ああそこにいたのかと気づくことが多かった
背中をなでるとぬくかった
ゆかいな猫だった
思い出をここには書きたくない
ゆかいな猫だった
ああもっとこうしてあげればよかった、と考えることがひとつもないからよかった
さいごに抱いたとき、ゴロゴロと鳴いてくれたから、よかった
2歳のムスメはもものことが大好きだった
もものほうは、最後までムスメにはなつかなかった
それでも気まぐれで、黙って頭を撫でさせてやる日もあった
昨日、ムスメと実家に泊まった
夜はまだ元気だったのに、今朝、急に固定電話が「はち、きゅう」と喋り出して、おや、と思うと、ももが電話の上でボタンを踏んでいた
それでみんなが集まって、どうやらももの様子がおかしいと気がつくことができた
なにもかもが弱々しくて、
たぶん、きょうが最期だと、なんとなくわかった
さっき実家を出るとき、最期のお別れをするつもりだっけど、結局しないまま出てしまった
家についてムスメを寝かせていたら、父親からももが死んだことを知らせるLINEが届いていた
お別れをしなかったのは、もしかしたらまだ生きてくれるかもしれないと思ったからだ
それでよかったと思う
ムスメは猫の死を理解できないだろう お昼寝をする前にはたしかにいたのに お昼寝から起きたらもういなくなっている理由もわからないだろう
それでもムスメが起きたら、伝えなくてはならない
2歳児に死を伝える練習を、したことがない