AJICO/2024アジコの元型ツアーw熊本B.9を振り返って

hagio
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2024年4月14日

地元熊本でAJICOのライブを見るために仕事を終えて急いで車に乗り込んだが、日曜日の大渋滞に巻き込まれて18時の開演に間に合わず。

普段なら17時には到着できるぐらいの出発時間だったのに。

ライブハウスの入り口のドアを開けると『ラヴの元型』の“野生ならではの不安は ラヴの元型”という最終フレーズだけかろうじて聞くことができた。

それが一曲目であることはたまたま隣り合った人から確認できた。

熊本でのセットリストは最新アルバム(EPと言うべきか)の『ラヴの元型』を軸にして、AJICO伝説のはじまりでもあるアルバム『深緑』からベンジーのBlankey時代の楽曲、ベンジーやUAそれぞれのソロ名義の楽曲まで盛り込まれた大充実の内容。(具体的な楽曲目や曲順は割愛、曲順に関しては僕自身もはっきり覚えてないし)

体感的にはこの日、箱全体が最も反応し、盛り上がったのはBlankey時代の楽曲だったし、あるいはUA(敬意を込めてウー子)の脚立ワンマンショーだったように思うが、個人的には『ラヴの元型』からの楽曲たちのエイジレスなみずみずしさに本当に本当に参ってしまった。

およそ一ヶ月前、「今が最強。常に最新が最高」を具現化したような新作に驚かされた日が昨日のことのよう。AJICOのAJICOらしさは失わないまま新境地に到達したような進化感。

この一ヶ月間、通勤のための往復の車内で、休日のドライブで、繰り返し聞いて落とし込んできた。熊本公演がツアーの序盤ではなく折り返しも過ぎた日程だったことによるタイムラグも個人的にはとても重要な役割を果たしてくれたように思う。

どの曲が好きとか、ありすぎて選べないけど、この日この瞬間では「言葉が主役にならない」が特別響いたかな。あと「美しいこと」は、昔々行ってたバーにジュークボックスがあって、そのラインナップにこの曲があるのを発見して、嬉しくて何度もかけたことを思い出したりして少しジンとした。あの曲、歌詞もめちゃくちゃいいから。一見すると噛み合いそうもないベンジーとUAの完璧なフュージョンも見られるし、AJICOのAJICOたるゆえんをよく示してくれる曲だとも思う。

そしてアンコールのアンコールでのまさかのオープニングがえりで遅刻の失態も回収させてもらえた。「もう一曲やるわ」とメンバーを連れ戻してくれたベンジー、本当にありがとう。

AJICOには「今が最強」に加えて「ライブが最強」をも見せつけられてしまった。まさに生が音源を凌ぐガチ勢の集まり。TOKIEさんと恭一さん、そこに鈴木さんも合わせて5者5様というか、5色の光線がまるでレイキャビクのイマジン・ピース・タワーみたいに天空に伸びてそこで混ざり合って揺らめくオーロラを生み出してるような、それぞれの体からそんなオーラみたいなものも感じたし、本当に独特で幻想的で、でもその瞬間彼らは確かにそこに存在していて、不思議な一体感のあるグルーブに酔いしれる時間だった。

今回熊本でライブが行われた日、4月14日というのは8年前には熊本震災の一度目の大地震が起こった日でもある。そういった日にたまたま熊本公演が行われた巡り合せの不思議さも感じずにはいられなかった。

今年の3月11日に京都を旅していた時にもふと思ったことだけど、今こんなふうに過ごしていられることって当たり前じゃないよなと。例え天変地異や戦争などに巻き込まれなくても、平凡な日常にもそれはそれで色々あるし、決して良いことばかりでもないけれど、体はまだ動くし、それなりに好きなことも出来ていること、それって、それだけでだいぶ幸運だとつくづく思う。

本当は僕らは誰でも明日どころか今日のこれからさえわからない今日を生きてると、この頃よく思う。もし次の大阪公演のチケットを持ってたって必ず会える保証なんてどこにもないのだから。

だからこそ、この奇跡のようなバンドのライブを見られたことの喜びも一層強かった。

もう20年以上経つのか、実はその時の東京でのツアーファイナルも僕は見ている。当時は東京に住んでいたからそこで見るのが一番自然なことだった。ところがその最後にベンジーがふいに「AJICOはこれで最後です」的なことを喋ってあっけにとられたというか、意表をつかれて何も言葉が出てこなかったことを思い出す。

でもそれからしばらく、よくよく考えていたらそれもまたAJICOらしい終わり方というか、そもそもAJICOに永遠なんて感じていなかった自分自身にも気付いて妙に納得した記憶がある。

思えばそこから20年の時を経てのまさかの再始動。しかも誰も欠けることのないオリジナルメンバーで!(ここ重要)。そして今回、自分もこうして再会する機会を得ることができた。

今でもこれは夢なんじゃないかと、キツネにつままれたような感覚がないでもない。

時々、『深緑』から(あるいは『AJICO SHOW』などからも)曲を引っ張り出してきては「いいバンドだったよな」と折に触れて懐かしんでいた人間にとって、再始動の一報がどれほど嬉しかったか、しかも期待が失望に変わることなく、むしろ想像の斜め上をいくみずみずしい楽曲たちであるとわかった時の嬉しさがどれほどだったか伝わるだろうか。

アジコの元型ツアーも残りわずか、大都市を残すのみとなった。

ツアーファイナルの地は追加公演となった東京・新宿。

ライブの終盤でベンジーが再び何か言ったりしないか一抹の不安はある。ただ、メンバーそれぞれがそれぞれの場で第一線の活躍をしている中で並行して存在するのがAJICOでもある。AJICOはそもそもが蜃気楼のような存在であり、メンバーにとって帰る場所、必ず戻らなければならない場所では決してないだろう。なのでどんな未来でも、受け入れようとは思っている。20年前に終わったはずのAJICOの物語の続きを見られただけでも充分だという気がしているから。

ただ、それでも一ファンとしての願望は「続けてほしい」。これに尽きる。こんなバンドは他にいないから。最高すぎるぞこのバンド。

///// ライブの余韻がいまだ醒めやらぬ中、その感覚が鮮明にあるうちに今回こういった記録を思いつくままに残しておきたい衝動に駆られたのは、この“しずかなインターネット”において、Mさん(あえて伏せます)という方の「すてきなあたしの夢」というエッセイを読んだのがきっかけでした。それは文章がとても素晴らしく、その中で語られたエピソードもAJICOのメンバーにも読んで欲しいと思うぐらいの実に素敵な内容でした。そしてそれは僕にとっても、人生ってなかなかいいよねと思える瞬間でもありました。

また、この“しずかなインターネット”という媒体。これも今回初めて知りましたが、コンセプトがとても面白いと感じたし、不特定多数に読んでもらいたいわけでは決してない自分の感覚とも親和性が高いと感じたのも書く理由になりました。

あの時あの場所でライブに集まった僕らはひとつの箱で同じことを確かに共有していたけれど、その一人一人にそれぞれの背景・物語があって、受け止め方があって、それを取り巻く人たちにも何らかの作用を起こしている。一つの事象がいかに多面的かを改めて感じたし、Mさんの文章がそうだったように、(彼女のような文才はないけれど)僕は僕なりの視点で発信し、僕視点でのAJICOに触れてもらうことも誰かにとっては日常の一瞬の彩りになるのかも知れないと思って書いています。

自分用の備忘録的側面も多分にありますが、もしかしたら読んでくれる人(恐らくAJICO本体かAJICOメンバーの誰かのファンの人)が数人いるかも知れないことも想定して、まだツアー中でもあるのでネタバレなどにも多少気を使いつつ客観性を持たせて書いたつもりです /////

ベンジーはUAを“スーパーチャーミング”と言っていたが、いやいや、メンバー全員がスーパーチャーミングだった。当のベンジー本人も「最近あったかくなってきたよね」のフリとか、「小さな恋のメロディ見たことある?見たことある人?」の前フリからの「見たほうがいいぜ」とか、いやいやいや。野郎からの野太い「ベンジー愛してる」のラブコールにもちょっと間をあけて素朴なトーンで「ありがとう」って返して場が笑いに包まれたり。色気満載で南関あげ好き?なTOKIE姉さんと黒子に徹していた恭一兄さんの最高のリズム隊コンビもスーパーチャーミングだったし、鈴木さんは彼がいてくれたことでAJICOの世界観をグッと広げてくれた感じがする。辛子蓮根だったかな。UAによって突如始まったミステリアスなコールアンドレスポンス要求にもメンバーがリズム合わせてたし。いやUAがリズム合わせにいったんだっけか。改めてUA(敬意を込めてウー子さん)のそういうとこすごくいい。彼女のあの踊りの流派は何なのだろう。彼女にかかれば型に囚われてないようにも見える所作のひとつひとつもとても絵になるし、とてもチャーミング。なるほど、スーパーチャーミングとは彼女を表すのにこの上なくピッタリな表現に思えてきた。

ここ一ヶ月、予習復習の意味もあって本当にAJICOしか聞いてなくて、ライブが終わったら他のアーティスト聞こうなんてぼんやり思ってたけど、車での帰路も「やっぱAJICOだわ」と結局自宅まで延々聞き続けていた。

熊本では当日券もあったようなので、最終的にも今回は定員いっぱいにはならなかったのかも知れない(なったかも知れない)。それは熊本の人間として少し(いや、だいぶ)残念な気もするけど、Mさんのエッセイに出てくる主人公や僕のように、ものすごい熱量を秘めて聞いていたオーディエンスが少なからずいたことはどうか伝わっていて欲しいと思う。

改めてAJICOに、本当に本当にありがとう。