2023年、お気に入りアルバム

はいファイ
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しずかなインターネットのおかげで今回はコメント付きの記事にすることができた。ありがとうしずかなインターネット。

順番はリリース順です。すべてサブスクにあり。アルバム名にsongwhipのリンクを貼っています。

■坂本龍一 - 12

今年はこの作品に始まり、ずっとこの作品だったとも言える。アルバムだけで純粋に評価できるような、そんな作品ではもうないけれど。私的なスケッチ曲集でもあり、そして教授がそこに生きていた息遣いでもある。どこまでも澄んでいて、どこまでも美しい。世界を取り巻く全てが、できることなら死後の世界までもずっと、そうでありますように。

■Rian Treanor & Ocen James - Saccades

ソリッドな骨太痙攣テクノのRian Treanorとウガンダ・アチョリ族のフィドル奏者 Ocen Jamesがコラボしたらどうなる?スーパーヤバくなる。俺たちの中に眠る土着的な野性味を喚起させると同時に、ハイパーサイバーな異次元未来に放り込まれる!

■Rob Mazurek & Exploding Star Orchestra - Lightning Dreamers

ロブ・マズレクが好きです。ジェフ・パーカーも大好きです。そして今回のオーケストラは、まさにこのプロジェクトの大きさに見合った、深い河の底から大陸、ジャングル、宇宙まで悠々と飛んでいくサン・ラ的スケール感とともに、シカゴ音響ジャズを思い出すうねるファンクネスが強く出ていて、興奮してしまう。ジェフ・パーカーは今年も引っ張りだこで、他の参加作ではMeshell NdegeocelloやDaniel Villarrealも話題でしたが、僕はこれ推しで…。

■Panda Rosa - Burned Car Highway Light Volcanic

すごい。2時間という尺もだが、その流れ出る音の渦。彷彿とさせる感触は、Animal Collectiveや、ジョン・ハッセル的第四世界音楽か。宇宙から、地中から、全方位から異形の音がやってくる。しかしその気持ちよさにも抜かりなく、全く耳が離せない強烈な引力。

◼️Spangle Call Lilli Line - Ampersand

ポストロックの旨みの抽出が洗練されて、端麗なダシとしてポップスに還ってきたような。クリアな音と歌声がずっと煌びやかで、心躍る夜空に連れていってくれる。

■Saint Abdullah & Jason Nazary - Evicted In The Morning

細かな生ドラムに対して、穏やかでシュールな電子音が、それぞれが緻密に絡み合ったり、そんなことなくてそれぞれマイペースに奏でてるような気もしたり、そんな距離感がスリリングに、どことなくユーモラスに展開されて、始終面白い。生ドラムエレクトロニカに弱い…。

■The Necks - Travel

The Necksはジャズと言い切っていいのだろうか、分からないけど、即興トリオとして一番かっこいいコンセプトを貫いて、誰も追随できないくらい一番かっこいい演奏を続けている。ミニマルなようで都度変化があって全然飽きない、完全に息の合った演奏に永遠にシビれ続けるフリーフォーム・ミュージック。

■Dream Dolphin - Gaia: Selected Ambient & Downtempo Works (1996-2003)

これは過去音源のコンピレーションなので、純粋な新譜とは言えないのですが…それでも、まずこのアーティストの存在自体をこれで初めて知ったし、こうしてMusic From Memoryからリリースされたことが、記録しておかなければいけない大切な出来事のように感じて。Dream Dolphin、90年代から2000年代初頭に活動していた日本人女性アーティストらしい。ニューエイジ、アンビエントテクノ、ポエトリー。このピュアでドリーミーな作風は、その当時だったら知ったとしてもハマることは出来なかったかもしれない。今こうしてこの真髄に触れることの出来た意味。肉体を離れたサイバー空間の奥底から響く声。serial experiments lainのような夢想をする。彼女は、夢のイルカはいまどこに。どこにでも…。

■More Eaze - Eternity

43分の中で、とても贅沢に、エレクトロニカとアンビエントの良い味がするところを盛り込んでくれている、宇宙で味わうコース料理のような一曲というか・・・。

■patten - Mirage FM

これもここに入れようか迷った…。アルバムとして、胸を張ってお気に入りと言えるかは微妙なところだった…けれど、間違いなく好きだし、間違いなくpattenの音になってるし、pattenの音になってる、ということが既に奇妙な成り立ちの音楽でもあるのだ。2023年という、AIによって見るもの聞くものが全てひっくり返っていくような年の、その記念碑として。内容について詳しくは以下URLを。https://wrszw.net/albums/patten-mirage-fm/

■Mark Barrot - J​ō​hatsu (蒸発)

音楽のアロマデュフューザー。音色からいい匂いがします。アンビエントもニューエイジもアンビエント・ジャズもはたまたデトロイト・テクノのような香りまで。蒸発できます。

■aus - Everis

2000年代のエレクトロニカの覇者(主にタワレコのロングヒット棚)が満を持して帰ってきた。そしてその中身は…驚くほど鮮烈で目が覚めるようなものだった。前もって持っていた穏やかなアンビエント・エレクトロニカというイメージは良い意味で裏切られ、ここにあるのは迫力ある音響と、達観したような高純度の風景でした。

■Memotone - How Was Your Life?

『君たちはどう生きるか』は、実にinterestingな映画でしたね。それはそうとこれも興味深い。ele-kingのレビューでもがっつりジョン・ハッセル色に言及している。ベッドルーム・エレクトロニカ的な感触でありながら、ジャジーな生音と得体の知れない部族のようなトライバルさが交錯する。インナーワールドからアナザーワールドへの扉が開く。やはり時代はふたたび"第四世界"を求めているのか?(しかしこの言葉はファンタジックでもあるが、そんな濫用していいものなのだろうか)

■cero - e o

2023年のマスターピース。この年にこの現在に生きることの喜びと憂い、距離感と温度感。なにより音楽への言祝ぎ。音楽のジャンルが集約された結実点のようで、その感触は真にプログレッシヴ。歌のある邦楽でここまで幸福な浮遊感が得られることがあったなんて。いや幸福なだけじゃない、ここには確実にネガティヴな気持ちも豊かにある。それらが絡み合って『 e o 』としか言いようのない色の水の中に浮かび続ける。とくに『Nemesis』は音、歌、リズム、全てが完璧でもう何もいらない気持ちになる。

■M. Sage - Paradise Crick

緻密なプロダクション、飛び回る可愛い電子音、やさしくフォーキーな生音…こんな、もう流行は去ってしまったかもしれないけど大好きなエレクトロニカが、こんなに満たされた音楽として2023年に生まれてくれたことが本当に嬉しい。

■Jim O'Rourke - Hands That Bind (Original Motion Picture Soundtrack)

なぜ、ジム・オルークの音のレイヤーは、こんなにも凄みがあるのでしょうか…。電子音ドローンも、バンド形態のドローン風味演奏も、この方の最近の活動が一枚の中に収まってるという面でも聴き応えずっしり。

■K-LONE - Swells

現在のテクノ・ハウスの人たちも、なんかどんどん音が良くなってるというか、それぞれ独自の音響手法を見つけて洗練させて、特に新しい音色というわけでもないはずなのに、とても艷がある、コクを感じる、そういう音で魅了するアーティストというのが増えている気がする。K-LONEはまさに、加えてキャッチーなビート感とハイセンスな音の配置で完全にツボをおさえられてしまう。そこを押してほしかったと身体が気づく。

■NATURAL WONDER BEAUTY CONCEPT - Natural Wonder Beauty Concept

日本のアパレルブランドのような名前….。しかしてその内容は、確かにこういった音楽が好きな人にとってはある意味でNaturalでBasicで、そしてとてもBeautyなものでした。上記のK-LONEで書いたような艶は、まさにこのプロジェクトのメンバーであるDJ Pythonにも感じるところ。トリップホップ、ダブステップ、ドラムンベース、曲ごとに見せ方を鮮やかに変えながら、それでいてどれも安定感とくすぐりのあるリズム、全体を包み込む大人なやさしさ…。

■NewJeans - NewJeans 2nd EP 'Get Up'

やっぱり入れさせてください……今年は繰り返し聴いたのに、入れないようなカッコつけはできなかった。元々UKガラージ大好きでもあるので、Dittoには大変トキメイた。そしてこのEPも全曲最高。NewJeansのおかげで、Erika de Casierや250、Men I Trustと言った素晴らしいアーティストを知ることも出来たので感謝しかない。

■Felbm - cycli infini

まるでTortoiseとTown and Countryが融合して長尺一曲を作ってくれたような、そこにECM的な残響ジャズも混ざったかのような、心の落ち着く美味しい時間がずっと続いてくれる。

■Banksia Trio - MASKS

日本で一番かっこいいことしてるジャズトリオはこちら。序盤のまるでフリーのような緊張感、中盤からのロマンティックな構成、なによりこの音のクリアさ。それぞれの楽器が点描的に音を置いていくような空間的な即興にも聴こえるし、どんなに美しいメロディでもお互いの距離感をクールに保つような、その間を意識した演奏にも聴こえる。

■world's end girlfriend - Resistance & The Blessing

いつものWEGでもあり、最強のWEG。耽美と退廃、創造と破壊、シンフォニーとノイズの極限的絵巻、音楽による現代の神と俗物の伝説的叙事詩。他の抽象的な音楽に比べて、ある意味言葉にしやすい(或いは音楽が語りまくっている)けれど、この2時間半という圧倒的世界を前にした時の畏怖、この孤独と幸福の渦に放り込まれ、それでも最後に救われるようなこの体験は、もはや言葉を絶する。

■illuha - Tobira

波長がバッチリ合うという感覚。潤いと乾きの絶妙なバランス。優しいアンビエンスと、ざらついた物音、どこか冷めたドラムス。満ちる音。それはまるで、Radianの夜中の緊張感を裏返した場所で、ゆっくり陽の光に照らされながら静かに演奏しているもう一つの姿があったかのよう。遠くて近い。

■Laurel Halo - Atlas

実は直前までこのアルバムは選外だった。自分の咀嚼力がまだこの作品を飲み込めていなかった。音楽クラスタの皆さんが賛辞を送っているのを指をくわえて見ていたのだ…が、12/18に淀橋教会で行われたライブパフォーマンスを見てしまい、一気に開いてしまった、この作品で涙が出てくるという新しい神経チャンネルが。Haloの作る音響、生音との聴いたこともないような立体感はもはや異世界で、そこでは濃厚に切ない死の香りさえするが、そこに入り込むことをやっと許されたような体験。彼女はこれまで、そしてこれから一体どれだけ深淵のチャンネルを開いて、僕たちを案内してくれるのか……

■Radian - Distorted Rooms

最高のバンド Radian。音一つ一つが弾き出される度にカッコよくて震える。バンドなのに感触としてはAutechreとかを彷彿とさせるタイプだけど、オウテカが生き物のような電子音を鳴らすなら、RadianはMartin Brandlmayrのドラムが歌っている。今作は特にその声がメロウかつダイナミック。そこに節度を持って斬り込んでいくスタイリッシュなノイズ。これこそ本当のポスト・ロックと言いたい。

■Oneohtrix Point Never - Again

OPNという音楽の迷宮。音でありながら全身で体感するタイプのSF。まるでディックの小説のような。ニューエイジかつサイバーパンクを、ベタに、孤高に、自伝的回想も含ませながら描き続けているような(そう考えると、Vaporwaveという文化とは関係ないが、Vaporwaveの始祖であることとはコンセプト的に繋がっている)。その鮮やかで退廃的な音空間は、どこに連れて行ってくれるのか分からないが、その未知の中に居る間はずっとワクワクしている。

■細野晴臣 - Undercurrent EP

上記のジム・オルーク作品もそうだけど、映画サントラの場合、映画も見てないのに音楽だけを評価するなんて…という気持ちもなくはない。でも、それにしたって、最近の音響アンビエント系作家の映画サントラ作品、すごくないですかなんか?音の粒、音の水圧のようなもの、水の音そのもの…音は水?18分音の中に浸かる気持ちよさ。細野さんの最新アンビエントモードとして聴いても涙モノ。

■Sam Wilkes - DRIVING

心温まるメロディにも、得体の知れぬ音像あり。多様な演奏とプロダクションからも人柄が滲み出てくるかのよう。どの角度から触っても親近感とストレンジさが潜んでいる。

■SG & Andrew Pekler - For Lovers Only / Rain Suite

とても愛しい。まるで90年代末のmicrostoriaを、あるいはTortoiseの質感を思い出すような音響に、私的に爪弾かれるギター、窓辺で聴いているような雨音…。とてもシンプルだけど、私を満たす要素が全て入っている。

■蓮沼執太 - unpeople

間と空間とメランコリーのエレクトロニカ。ポストモダン・アンビエント。聴きやすくてバラエティ豊かな肌触りでありながら、目線はどこか前衛的な場所を見ている。掴みどころがないようで、完全に現在の空気を掴んでいるようでもあり、繰り返し聴きたくなる。

■Jules Reidy - Trances

左右の耳元で奏でられているようなギター、その残響音がドローンのように頭の中に響き続ける。音が消え去る前に容赦なく繰り返されるフレーズは、周回する電子音、霧のようになったボイスとともに混ざり合い、まさにTranceを誘発する。クリスタルな音の輝きの中で忘我するような素晴らしい体験。

以上です!

なんとなく、知ってるアーティストの新譜ばかりになってしまったなぁという印象があり。来年は、もっと知らないアーティストを聴き込んでいけるといいですね。