宇多田ヒカルの4KアップグレードMVを観てる

はいファイ
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宇多田ヒカルは良いぞ。

そんなこと、日本中、いや世界中がもう知っている。そんな宇多田ヒカルさんと8月に会えることになりました。ツアーチケット当選したので。へっへっへ。これは自慢です。

そんでもって、そのツアーは自身初のベストアルバムの名を冠したツアーでもあって、そのアルバムは来る4/10に発売予定。現在、それに向けて連日YouTubeにて過去のMVの4Kアップグレード版というのが一つずつ公開されている。これを思ったより楽しみにしていて、意外とマメに見ている。宇多田ヒカルは好きだけど、昔のMVってそういえばあまりしっかり見てこなかったな、と思い。それがどこまで綺麗に手直しされているのかと気になり。当時のミュージックビデオなんて、絶対4Kでなんて撮影してない、HDですらないものが大半だと思うので、いわば今回のアップグレードは4Kといっても、もともと低い解像度の素材を擬似的に4K解像度まで拡大してもノイズで荒くなり過ぎないよう、AIなどの補正技術を駆使して処理を施したものなのだと思う。だから、マスターが無い以上、目を見張るような綺麗さを期待することは難しい。「4K」が「高画質風」の代名詞的な使われ方をしているのがちょっと気になる。

それでも確かに、昔の宇多田ヒカルのお顔がアップになった時の肌の滑らかさなどは、おお確かに綺麗に見える、という感じになっている。Wait & See 〜リスク〜 なんかは結構分かりやすい出来栄えに見える。

しかしギャルい!その乗り物はなんなんだ、そのハートのついた服は誰が着せたんだ、なんで一回地下鉄の駅入ったんだ危なすぎるだろ、というかそもそも増殖はなんなんだ(MVで増殖するのは今や普通すぎて気にならない)など、この頃のMVの演出にツッコミを入れ始めたらキリがないのだが、おそらくこの時代はMVとは言わず「プロモーションビデオ」という言い方が主流だったと思うし、あくまでTVでインパクトを植え付けるためのビジュアルイメージでしかなかったこともあるのだろう(フル尺でビデオが流れること自体稀というか、ケーブルテレビの音楽専門チャンネル等でしか一般視聴者はフル尺を見る術がなかった)。

そんな初期MVの中でも、Addicted To Youのビデオは割とかっこいい。カッカッ!というリズムに合わせてクックッと動くカメラワークがイカす。インサートされる中国の自転車風景はなぜそれが選ばれたのか謎だが。そもそも中国なら自転車の集団という実にステレオタイプなイメージ自体が、まだそういう偏見を表現してしまうことに何の躊躇いもなかった時代なんだなと思わせられる。

ただ、曲だけでいうと正直、このアルバム『DISTANCE』の頃の楽曲は自分にはそこまで刺さらず、あまり思い入れある曲もない。その前のデビューアルバム『First Love』が傑作すぎたというのもあるが…。Automatic, First Loveは言うに及ばず、In My Room, time will tell など、この時点でマスターピースと呼べるような曲が揃っていたことにはもう、何度驚いても驚き足りない。

そして、紀里谷和明氏のMV時代に入る。この2002年の頃になると、洋楽の世界などでもオーディオとビジュアルの関係がより密になり、プロモーションビデオではなく「作品」として見られる時代に入ってきていたと思う、というか日本においては紀里谷和明氏がその地位を押し上げた立役者だったかもしれない。

SAKURAドロップス、travelingのビビットなビジュアル、芸術的なディテール、幻想的かつ超現実的な世界観、アニメーションとの境界が融和するような鮮烈な表現はまさに衝撃だったし、これらが連日テレビで流れていたのは実に豊潤な成果だったと思う。それはミュージックビデオというものを、映像作品として「全部隅々までしっかり見たい」と人々に思わせるような意識変化を促したし、宇多田ヒカルという存在に秘められたアーティスティック性までもが急激にアップデートされた印象があった。なんかもうナウシカみたいな神々しさになってるし。(それでもSAKURAドロップスというタイトルは結局ダジャレだよなあとなってしまうあたり、宇多田ヒカルの音楽づくりのずっと変わらない「ハズし」が効いている)

改めて(今公開されてる4K版だけだが)見直したら、FINAL DISTANCE のMVもとても良かったし、Be My Lastと光も紀里谷和明だったんですね…。パートナーの皿洗いを執拗に写したかと思えば車で跳ね飛ばしたりして、一体宇多田ヒカルをどうしたいんだという気持ちになってくる(その最たるものがKeep Tryin'か…)。ちなみに活動休止前の中で、音楽として一番好きなのは Passion です、キングダムハーツやったことないけど。

でもビデオのLook&Feelとして好きなのはやっぱりCOLORSかな…

そんな感じで、4Kアップグレードに合わせて人間活動前のビデオを振り返っておりましたが、思うのはやっぱり音楽的にも、圧倒的に活動再開後、『Fantôme』以降の今の宇多田ヒカルが最高だなという実感。それは、自分の思うがままに、歌手ではなく総合的なサウンドプロデューサーとして自然体に音楽を表現できているように感じること、加えて現代の聴衆の耳がやっと彼女の聴こうとしているものに追いついたというか、下手な装飾などいらずにリスナーが音楽を受け止めることが出来るようになった、宇多田ヒカルに驚き続けてきた時代から、時代が宇多田ヒカルとシンクロする時期に入ることが出来た、とでも言うような、そういう一体感、開放感を、今のサウンドからは体感することができるから。『BADモード』は大傑作だから。(でも…だからこそ、"BADモード"のMVは、本当に残念。このシンクロした現代において、ここまで、サウンドから得られる感情と乖離した映像が作られてしまうんだという、悪い驚きがありました…)

では最後に、4Kアップグレードとは関係ないですが、僕が一番好きな、宇多田ヒカル本人さえ一切出てこないMVを貼って終わります。僕はこの曲とこのMVで、宇多田ヒカルの本当のファンになったと思う。