高橋幸宏さんのライブに行ってきた。

はいファイ
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いえ、高橋幸宏さんは残念ながら、昨年1月11日にこの世を去られております。本当に悲しかった。幸宏さんは沢山の人達と共演し、たくさんのバンドをやっていた。だから、その共演者たちが昨年作った作品から、幸宏さんがもうこの世にいないことのその寂しさみたいなものを、面影として感じ取っては、こちらも寂しくなっていた。

そうして1年経った今、2018年のライブ映像が映画館で上映されているのです。それも普通の映画館じゃない。109シネマズプレミアム新宿、という、昨年4月にオープンした、とにかくプレミアムな体験を、というコンセプトのたっけぇ映画館。まず席が最低4500円からしかない。普通のシネコンでも値段が高くて良い椅子座れるプレミアム席があると思うけど、まず全席あれ。その上さらに+2000円の超プレミアム席もある。サイトを見ても、なんだかタワマンの広告でも見てるような気分になってきて、まぁ正直自分が行くことはないだろうというか、映画ならIMAXでも十分良い音だし…と思っていたのですが…。

その音響の監修がこれまた故・坂本龍一氏だというんですよね。まぁとはいえ、坂本氏はNY在住だし、監修といってもどこまでのことやら…と穿った捉え方をしていたのですが…。

まず、この映画館が入ってる建物自体が新しいのですが、オープンしたての頃はネットでも話題になってましたね。主にジェンダーレストイレの件で。そうあのビル、歌舞伎町タワーです。そしてこのビルの位置的に、すぐ目の前にはもう一つの話題の場所、トー横広場も広がっています。トー横キッズを横目に(今は柵だらけになって監視の目もきつくなってあまり集まってなかったように見えた)真新しいエスカレーターを上っていくと、いきなりこの風景。

ゴテゴテのサイバーパンク風ネオンイメージを模したフードコート、居酒屋が並び、まさしく外来的ネオトーキョーイメージの逆輸入で装飾されていた。あるいはゲームのCGでしか見たことないものが現実を再定義し始めたと言うか。まぁいきなり安っぽくもあるんだけど、そこにChim↑Pomの『ビルバーガー』を配置しておくセンスはなかなか唸るものがあった。

しかし、歌舞伎町、トー横、そしてこの目がチカチカする俗世全開の空間を強制的に通らせた後、エレベーターを乗って降りたらいきなり109シネマズの「上質なおもてなし・・・」みたいな薄暗いブラウンの空間にひっくり返すこの導線、なかなか迫力がある。スラムみたいな街からビルに入って上層に上ると急に高級なペントハウスが広がっている、というのはサイバーパンク2077というゲームをやっていた時によく見た光景だけど、まさにそれという感じがした。資本主義というもののダイナミックさを全身で体験するコンセプチュアルな演劇に身を投じているような気分になった。

さて、僕はそんな資本主義の勝者でもなんでもないので、その高級感ただよう空気と、ゆったりレイアウトされたソファで談笑する懐に余裕がありそうな人々の中で若干日和りながら、音楽につられてこんな場所に来てしまってすいませんとオドオドしつつ、4500円のチケット代に含まれているポップコーンとドリンクを受け取って入場。高いチケットだけどポップコーンとドリンク代は込みなんですって!ポップコーン多すぎて全然食えない。ポップコーンって高級食だったんか?もっとこうなんか、チュロスとかにしてくれませんか?あれはTOHOシネマズか…。ちなみに、6500円の席の方を買うと、さらにその人達しか入れない上映後専用ラウンジがあるらしく、そこでお酒ももらえるらしい。とにかく階層社会を体感させることに徹底していてすごい。

というわけで、高橋幸宏 SARAVAH SARAVAH! LIVE2018 のことを書く前に、それまでの道のりの体験がすでに興味深すぎてこんなに書いてしまった。ここから映画、というかライブのことを・・・書く前に、そうだ、ほら、たとえばIMAXとか観に行ったことある方は分かると思いますが、映画が始まる前にそのシアターの特徴をデモンストレーションする映像が流れたりするじゃないですか。最初はすげぇ!って思うけど何回か見たらもういいよ分かったよってなるやつ。この高音質を謳ってるシアターにもきっとそういうのがあるんだろうなぁ~と思っていたら。

暗くなった会場に、ふっとカメラ目線の坂本龍一氏が映し出され、恐らくあの、最後の記録コンサートを行ったNHKのスタジオと思われる場所で、教授が「日本一の音響の映画館ができたと思います」と語りかける挨拶、のみが流れて、始まりました。。。どんなデモンストレーション映像よりも感服した、とんでもねぇ説得力の一幕だった。

そして、映像(ライブ)が始まって。とんでもねぇ音が出てきた。あまりの音の凄さに終始にやけていた。絶対、ライブ会場で生で聴く音よりもすごかったと思う。そんなことがあっていいのか。音の迫力がすごいのに、それでいて解像度も半端ない。すべての楽器の音が一切混じり合うことなく聞こえてきて、まるでステージのど真ん中で聴いているかのよう。これは映画館もさることながら、このライブ音源の調律もすごいことになってるのではと思った。

元気な幸宏さんがそこに居た。スタイルが良くて、立ち姿も座り姿もサマになって、ダンディでありながら軽やかで、優しいのにピリリとした芯を感じさせて、メガネや帽子や目つきからとても繊細な心で世界を見ていることを感じさせる、幸宏さんが。

突然、今からYMOの話をする。いや、語りだしたらもう日記じゃ済まなくなるので、ちょっとだけする。坂本龍一、高橋幸宏、細野晴臣。この3人はそれぞれ違うベクトルで皆カッコいい。や、一流の人達はもうその実績だけで当然カッコいいのだが、ルックスまでかっこいい。と同時に、その人を通した世界を自分も追体験してみたいと思わせる。見た目がカッコいいだけじゃなく、その人のフィルターを通して見ている世界まできっとカッコいいに違いないと思わせる。だから僕はわりと若い頃、自分の思い込みレベルでいいから、精神だけでもその人っぽく振る舞ってみようと思ったことがある。坂本龍一のように、高橋幸宏のように、細野晴臣のように。もちろん全然出来るわけがないんだけど、それでもそうやって憑依させると、世界を新鮮な緊張感を持って見つめ直すことができる気がした。3人が3人共、それぞれ違う世界を見ていたと思うし、それら全部追体験してみたい。そんなことを思わせる存在が集まって音楽グループをやっていたなんて本当に奇跡みたい。

そんな3人が、今日も目の前のステージで共演していた(教授はビデオメッセージで、細野さんはゲスト参加で2曲演奏)。そもそもこのSARAVAH!というアルバム自体が、高橋幸宏のデビューアルバムであり(そして2018年にボーカル再録リマスター発売)、そのデビューアルバムでは教授がプロデュース、ベースは全編細野さんなわけだ。つまり、今目の前には憧れが広がっている。幸宏さんと細野さんが、教授が監修した音響設備の中で演奏している。

だけどもう、そのうち2人はこの世にいない。こんなに楽しくて素晴らしいのに、こんな日があるということをもう2人は知らないのか。こんなギフトを残してくれて、それを心から楽しんだり、ひっくり返ったりしている人間がいるということを。

幸宏のドラムを、知らないおっちゃんとノリノリで聴いていた。きっとこのおっちゃんも僕と同じように憧れを持って、捨てきれずにここにいるのだろう。6500円のチケットまでは踏み切れず、4500円のチケットでなんとか、資本主義の階層の中間に挟まりながら、少しでも、自分にとってのカッコいい世界にしていくために!

幸宏の目のように繊細に世界を見つめ、幸宏の声のように落ち着きながら、幸宏の立ち振舞のようにスマートに、幸宏の語りのようにユーモラスに、幸宏のドラムのように迷いなく力強く、生きていこうと思いました、明日からしばらくは。新宿の雑踏にまみれる帰路の中でも。いや迷いなくは難しいな、新宿にはたくさん地下鉄の駅があるし、JRの新宿駅は迷うためにある。