「……長崎、おいはもう、「なぁーに佐賀ん癖においのカステラも食えんとね♪」
「うう……んまかばってん」
「まぁーたあんたらの痴話喧嘩始まったとね?」
長崎に佐賀の常のやり取り。それに福岡が笑いながら絡んでいっているだけのいつもとなんら変わらぬ皆の様子を傍目に見ながらチキン南蛮とお酒をちびちび嗜む。九州一族での飲み会は久しぶりだが彼らんなんら変わらぬ様子に心も緩んじいく。横目に彼らを見ているのが分かったのか宮崎が朗らかな声で話しかけてきた。
「みんな楽しそうやなぁ〜♡ ね、大分ぁ俺らもやる?」
「よだきい」
なにおう。っちゅうかどっからそげな感想出ちくるんやと。ただただよだきいだけやろ。
宮崎がえぇ〜と声を上げるもそれは変わらずで。
「まあえぇか〜」
「いいっち」
ゆるゆるとした大分の声を遠耳に聞いた。
暫くは平穏に何事もなくそれぞれ酒や料理を嗜んでいたが不意に宮崎がこちらを見つめてきてどういう風の吹き回しか、
「……ねぇおーいた、ちゅーしてぇ」
「、……なんち?」
「やかいちゅー!してくんない♡」
「よだきい」
なんでいきなりこいつがこげな言うちきたんか理解し難いが、ダントツでよだきいナンバーワンだそんげなこつ。長崎たちに気を取られているとはいえ皆ん前やん。
にべもなく手を横に振るジェスチャーをしているとふと彼が笑って、己の唇に彼のそれを重ねてきた。
「……、やめちっち言うたにぃ」
「えーなんば言いよっとね〜」
相変わらず思考の読めないほけほけ顔を見つめる。ほんとになに考えちょんのか。
「皆おるんやし恥ずかしいやろ、そげなんぬさらばかち言うんや……」
「でもほら、みんな長崎たちに気ぃ取られちょって誰も見てんちゃ! っちゅうか赤うなっちょる大分もむぞらしいねぇ〜」
「そげなこつどげえでんいいけん、なんかなしもうキスはさせんちゃ」
「んー!」
己の手で彼の口許を覆うとそうはさせぬと彼もまた抵抗してきた。
そんな意味もない組んず解れつをしているうちにまた厄介な相手に見つかるもので。
「あー宮崎ダウトー!!」
カステラ男(他称)の楽しそうな笑い声が聞こえてきて頭が痛くなる。羊羹人間(他称)との痴話喧嘩もいつの間にか幕を閉じていたらしい。
しかも勝負の決着がつきかけて宮崎に馬乗りになられている状態だったのでさらに分が悪い。そうは言うてん途中で己の戦闘意欲が落ちただけなんやが。
「宮崎もやりおるねぇ」
便乗してニヤニヤ笑う今回の紅一点もいて、また厄介なことに……と頭を抱えたくなる。
「部屋でやりー」
またもや佐賀に構いかけながら楽しそうに言う長崎に加え、予想していた通り他の九州一族までこちらを見遣っていて思わずなんの意味もなく腕で目を覆った。
「んなこと言いよる長崎やってこんげとこで色々やっとったじょにー」
「ばってん押し倒すまではしとらんばい♪」
っちゅーか押し倒してなにする気やったん、おいはそこまではしとらんけんね。
あり得ない会話に居た堪れなくなり、腕を避け目を開けると思ったより近くに宮崎の顔があって思わず目を見開いた。口をはくはくさせるも何もない。
彼は長崎の方を向いてまだ話していたから何とも気付いていないだろうが。慌てて顔を逸らすものの、恥を踏み切って見るとやはり長年の惰性が出て。
(……よだきい)
要するに全てがよだきくなったのである。面倒臭いことは嫌いだ。なんでんいいや、と思い彼の頭をこっちに向けさせる。
少しばかりの恥なんてもういいけ。
「大分?」
「酔ったぁー」
彼と抜け出してしまおうと思い起き上がって雑に宮崎にしなだれかかる演技をすると宴も酣の一族からは明るい笑い声がした。適当すぎ!と笑われた気配がする。
しなだれかかった先の彼の温もりが伝わってきてひどく心地良い。