開きかけた蕾はあまりにも未熟であった。
「水戸さん、好き!」
まだ己が幼く、童の姿であった頃。未開発で田舎であった己へ都市計画を進めてくれたのは紛れもない徳川さまだった。そしてそんな穢土であった己に父親の様に情けをかけてくれた水戸改め茨城さん。
唯一無二とは言えないが、その言葉を捧げても良いほどには彼を慕っていたから。
口癖の様に何度も何度も、恋情とも相慕とも問わず発していた言葉はひどく彼の心に刺さっていたのだろう。
「……、俺も江戸と一緒にいると楽しいよ」
幼心にそう言う彼がどこか遠い目をしていたのを覚えていた。
「――……懐かしいな?」
そう言って、ふと笑う。裏葉柳色の目が三日月の形に歪められて、照り映える。
「もう勘弁してくださいよ……」
思わず恥に溺れ、目を逸す己を見てふと笑う彼の微笑みは今でもただただ、あまりにも美しかった。