バイト終わりに、雨の降る池袋を歩いた。 整備されていないコンクリートの割れ目に、雨水が停滞している。 そこに足を突っ込んでしまないように、注意深く歩いていく。 後輩のSNSに、「池袋を歩く人のほとんどは、人を避けるという行動に労力を使わない」と書かれていたのを思い出した。 下を向いて歩いていると、前からやってくる通行人に気が付けない。 ほんとうに歩きづらい街だ。
池袋駅西口は、四捨五入すれば中国である。 道には残飯が落ちているし、聞こえてくる会話も中国語がほとんどだ。 相合傘で歩いていくカップルたちは、きっと西口の北エリアにいくのだろう。 ではあそこはというと、ほぼ鶯谷である。 彼・彼女らは、いわゆる「恋人つなぎ」で手を繋いで雨の池袋を歩いていく。 恋人つなぎって、恋人以外とも擦ることがあるのに、どうして恋人つなぎと呼ぶんだろう。 というかそもそも、手をつなぐときって、だいたい「恋人つなぎ」な気がする。 ほかにもっといい呼び方ないのかな。 そう思ったけれど、他にいい名前が思いつかない。 ゆであがったパスタ掴むやつ繋ぎ? うーん、なんかちがう。 私はそれからというもの、「恋人つなぎ」に代わる名前を考え続けた。 しかし悔しいことに、私にはネーミングセンスがないらしいことがわかった。
それからというもの、会う人会う人に「恋人つなぎ」について質問していった。
Q:「恋人つなぎ」に代わる名前をつけてください。 A : てか恋人繋ぎ以外につなぎ方ってある? なるほど、と思いGoogle先生に「手 つなぎ方」とさながら中学生みたいな検索をしてみる。 検索結果一覧のなかから、最も信用に足りそうなサイトをタップする。 そこには「恋人つなぎ」のほかに「逆恋人つなぎ」「約束つなぎ」など、様々なつなぎ方が書いてあった。 恋人繋ぎ以外にも、あるらしい。
Q:「恋人つなぎ」に代わる名前をつけてください。 A : うーん、「碇ゲンドウつなぎ?」 ――天才か?
これからは、碇ゲンドウつなぎと呼ぼうと思う。 なんだか、きゅんきゅんはしないな。
あ、じゃあこれはひょっとしたら、名前のない手の繋ぎ方なのかもしれない。別にわからなくてもいいよ。私だけが繋いだ意味をわかっていればね。君にすらわかって欲しくないもん!