最近の私といえば、常に怒っている気がする。ホルモンバランスのせいにするにはあまりにも長期的かつ、暴力的な怒りで、でもそれが人に噛み付くことのないようなんとか手綱は握ることが出来ている、そういう状態。誰かに愚痴りたい、でも、誰かに愚痴りたいと思っている時点で、その誰かに「何を言って欲しいか」を期待してしまっているのではないか、という後ろめたさも同時に感じる。思考はぐるぐるぐるぐるまわって、街ゆく車のタイヤの回転にすら酔ってしまいそうになる。
とりあえず、親友に連絡した。「今夜軽く飲めない?」「おけ」二つ返事で快諾を得た私は、電車を飛ばして高田馬場に向かった。もう定期では無くなってしまったから、高田馬場駅の改札を抜けるとき、しっかりと178円が引き落とされた。社会人、を感じる。
副流煙を湛えた高田馬場駅前ロータリー(通称、ロタ)は、火曜日であるにも関わらず多くの大学生で賑わっていた。彩度の低くなったブリーチ毛が何人も集まって、円陣を組みながら儀式めいた掛け声をはじめる。私も数週間前まで大学生だったわけだが、彼らが歳下であるという事実がどうしても不思議に感じられた。
私は、振られたこと、元彼にもう新しい彼女ができたこと、しかもそれが私と2人で小旅行をしたことがある子だということ、元彼と付き合っていたときから彼に好意を寄せていた女の子はたくさんいたということ、それらすべてを親友にぶつけるように話した。「あーね、あーね?」 親友は一辺倒な相槌を返す。彼女はいつもそうだ、返事はいつも軽々しい。軽々しさのなかに、重たい空気をふわりと持ち上げようとしてくれるような意図を感じるから、こいつのことが大好きだ。
「まあでもそれはさ」親友はぐび、とジャスミンハイの入った缶を傾ける。「彼と付き合ってたときのあんたが幸せそうだったから、彼が周りから見て数倍魅力的に映ったんだと思うよ」
なんていいやつなんだろう、と、心の底から思った。私は、私の過去の気持ちも今の気持ちも未来の気持ちも無碍にしないそのものいいに、心底救われた。そして同時に、こいつと共同墓地にはいりたい、と強く思った。
ロータリーでは相変わらず、プリンみたいになった髪の毛を振り乱しながら、大学生が騒いでいる。「私たちは、確実に、模範的な学生カップルだったと思うよ」別れ際に元彼に言われたことを反芻する。私も、そう思う。でも、いまは、幸せになってね、とは、絶対に言わない。