2024/04/05 「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」

剥製
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桜が咲いてからというもの、東京の空は青い顔をなかなか見せなかった。やっと晴れた今日、なんとなくたくさん歩きたい気分だったから、大手町から東京駅までの地上を歩いた。デパート横に、桜並木がみえる。通行人は足を止めて、桜の写真、あるいは桜と自分の写真を撮る/撮られる などしている。私のことを写真に収めてくれる人はいないから、青空に映える桜をぼんやりと眺めながら、規則正しく点滅する信号に従って、だまって歩いた。

アーティゾン美術館にいった。学生時代は無料で入れたこの美術館も、社会人になった今、1800円の入場料が必要になった。歳をとるとは、嫌なことばかりだ。

そういえば、以前アーティゾンにきたときは、マリー・ローランサンの展示をやっていた。そのときに一緒に行ったひとが言っていた――「英訳された題名をみると、主役と脇役がわかるね」 恥ずかしながらふだん絵の解説を読まずに飛ばしてまうことが多い私は、それを言われてぽかんとしてしまった。

『女と犬』というタイトルの絵の英題は、『Woman with a Dog』。『牡鹿と2人の女』の英題は『Two Women and a Doe』。どちらも女たちが主体なのに、日本語のタイトルではそれらがまったく関係ないかのようにならべられている。日本語では並列に並べられているモチーフが、英語になった瞬間にどちらが主体なのかが明確になる。では逆に、日本版タイトルはなにをもってこの順番にモチーフを並べているのだろうか。考えてみたけれど、わからなかった。

アーティゾン美術館をあとにして、すっかり日も暮れた東京駅周辺を歩く。昼間に通り過ぎた桜並木に再び立寄って、歩行者天国となった道を堂々と歩いた。歩行者天国には、透明な天使がいるような気がする。だれにもきづかれず、それでもたしかに楽しい何かを探している天使。私のことだったらいいのにな。

天使はやさしいから、いろんな人に施しを与えてくれる。でも私はそこまでやさしくないから、施しじゃなくてお下がりくらいしかあげられるものがない。もともと、人になにかを与えるのが得意では無い。だから、許してほしい、私が大切に使い古したなにかで、そのまま、再上映みたいに、どうか喜んでいただけたら、それで

@hamigakico
日記とたまに小説を書いています。