私の職業によく寄せられる不満の一つに、「泣き寝入りを勧められた」というものがある。私自身、コストに見合った利益を得られない見込みが高い場合には、その先には進まないほうがよいとアドバイスすることが多い。その意味では、私もよく「泣き寝入り」を勧めている。ただありがたいことに、そのことでクレームになったことはまだない。
私の職業の人がよく「泣き寝入り」を勧めるのは、ただコストパフォーマンスという観点からだけではないように思う。「泣き寝入り」によって物事を解決させるという世渡りを、他の職業に比べて多く行っているから、という理由もありそうだ。
正義を実現させる職業の人がよく「泣き寝入り」しているなんて、信じられないかもしれない。しかし、これは事実である。大きなトラブルから身を守るため、泥をかぶる程度から、尊厳を傷つける程度のものまで、様々な「泣き寝入り」をしている。いずれの「泣き寝入り」にせよ、トラブル回避と引き換えに、自分を少しずつ切り売りすることになる。そうやって取り戻した平穏な日々の中で、静かに、そして確かに、傷が沈殿してゆくのを感じる。その苦しみを私の業界で吐露しても、たぶん相手にされないだろうから、私はなるべく言わないようにしている。
こうして私は今日も「泣き寝入り」を勧めている。その人が傷つく姿を見て私はまた傷つくが、同時に自分に「お前はこの仕事に向いているはずだ」と言い聞かせる。