一時身を案じた友達のこと。
まだ安心はできないしむしろこれから気をつけなきゃいけない状況みたいだけど、私が心底心配したのが無駄だったかのごとく元気に生きてて、むしろ知り合ってから今が一番精神的に落ち着いてるように思える。
どんな環境にいることがその人にとっての平穏になるかなんて、誰にもわからない。
この間仕事でお世話になった人と食事をしていたら、その人は子供の頃からあまり家に帰らず、友達の家を転々としていたという。ある友達の家においてはそこのお母さんが食事洗濯を面倒見てくれて本当の家族みたいに接してくれていたと。
高校生になってすぐにバイトでお金を貯めて、その友達家族に安アパートを借りてもらい、友達とふたりで生活をはじめた。
その友達というのが、素行の悪いチンピラ。家庭環境はいいチンピラ。チンピラにも色々あるな。
あるときチンピラ君が数日家に帰ってこないと思ったら、ニュース番組に突然名前が出てきて、今で言う特殊詐欺で逮捕されていたらしい。
そういうことをやるやつだとわかっていたから大して驚かなかったんだけど、その人にとっては一番の友達で、大事な人で、それは今も変わらなかった。
ひとりの人の中には、語りきれないほどの複雑な事柄がある。でも、そのすべてをひとりの人に見せることはできなくて、自分の良い部分を引き出してくれる人、悪い部分ばかりが引き出されてしまう人がいる。
チンピラ君にとっては何らかの事情で世界のほうが自分の悪を引き出してくる存在で、友達や家族の前では良い自分でいられた。そういうことだったんだろうと思う。
まぁ、その人が特殊詐欺を働くことを悪と考えていたかどうかわからないから、これは私の想像の範囲の話。
人には人の、その人にしかわからない安息の場所があって、常識の範囲の中で生きることだけが自分にとって幸せとは限らない。このお話しをしてくれた人も、陽気で気遣いにあふれた人だった。