人生初の下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)を受けた。せっかくなので感想を書く。
前提として、私の場合は検査前夜から自宅で下剤等を服薬し、検査自体は日帰りで受けた。理由は掛かりつけの病院がコロナ患者で病床が逼迫しており、入院ができないためだ。事前に病院で細かな説明を受け、服薬する薬セットを一式もらい、その日に備えた。
前日は具なしのおかゆか素うどんしか食べられなかった。病院内の売店で売っている検査食セットもあるので、好きな方を選んでほしいと言われた。どちらにせよ、食事制限がついた時点で食欲旺盛なデブにはミッションインポッシブルだ。下剤を飲んだ時に苦しみたくないと思い、検査当日の4日前から毎食リンゴしか食べず、検査前日は絶食した。この時ばかりは私も体重がキティちゃんと同じになったと思う。空腹を乗り越えると、悟りを開きそうになった。
そして検査前日の夜、最初の「10mlの下剤を丸々1本200ml以上の水に入れて飲む」というミッションをクリアし、布団に入った。うとうとしていると、腹から凄まじい音がしたが、構わず寝た。
検査当日は検査がおわるまでは食事はできない。指定された時刻に錠剤を2錠飲んだあと、でっかいパックに入った「経口腸管洗浄剤」を2Lの水で溶いて、数回に分けてゆっくり飲まなければならなかった。それが結構苦しかった。喉が渇いているわけではないのに大量の水を飲まなくてはならないからだ。「全然減らん」「まずい」「助けてくれ」とひとりでブツクサ文句を垂れ、鼻をつまみ、時にえずきながらなんとか飲み続け、度々光の速さでトイレに駆け込んだ。
便器に腰掛けると、自然とかの有名な彫刻の「考える人」のポーズになった。「考える人」はなにも考えておらず、地獄へ落ちた者たちを上からただ眺めているだけだというが、彼と違って私は考えた。トイレの床を見詰めながらこうして抗えない便意と戦っていることで、もしかしたら地球の裏側で新天体が発見されるかもしれないと。汚ねえバタフライエフェクトになってしまうが、気は紛れた。
腸管をきれいにする、つまり、すべてを出し切る必要がある。この、体内のものを水分と共に強制的に体外に排出する作業が地味にしんどかった。げっそりしたが、指示通り出すものが水だけのような状態になったので、一休みして家を出た。
病院に着いて、手続きをし、問診を受けた。私の場合は日帰りだから、鎮静剤は使用せずに処置を行うという。意識があるまま肛門から異物を押し込まれる——シンプルに拷問だと思った。頭の中でラッパーが「肛門への拷問に愁悶し悶々」と韻を踏みはじめた。
尻の部分に穴が空いた使い捨ての検査着に着替え、処置室に入り、最初に腸の動きを止める注射をされた。これが痛かった。検査台に横向きに横たわり、尻を医師に委ねた。
肛門は出口であって、入口ではない。しかし、私の括約筋はカメラを拒む事なく呆気なく屈した。幸いな事に、痛みはなかった。
仰向けになって片膝を組むよう言われ、おそるおそる体勢を変えた。腸内を映すモニターが見えた。機器を操作しながらモニターをガン見する医師、慣れて完全にリラックスしてモニターをガン見する私……つらい検査かと思っていたが、全然楽だった。検査よりも自宅での洗腸の方がしんどかった。
若いためにリンパなんたら(失念したが、悪い話ではないような雰囲気だった)が見られるとのことで、大腸と小腸の境目の組織を取り、生体組織の検査に回すとのことだったが、それ以外に大きな異常は見られず、20分ほどで検査は終わった。
検査が終わり、清々しい気持ちで病院をあとにした。外は春の陽気だった。空腹のあまり、飢えた獣と化した私は、帰りにバーミヤンでご飯を食べた。へこんでいた腹が出て、少し余裕があったTシャツがぱつぱつになったが、ただのデブではない。大腸は健康な元気なデブだ。
再来週、検査の結果を聞きにまた病院へ行く。なんともないといいなあと思いつつ、ちょっとビビっている。