ちえこさん

harutaka
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「エスカレーターで地上に出たら正面に進まず、反対側つきあたりの西口(小さな改札口)で」と待ち合わせ場所を示してくれたちえこさんは、こちらに気づくと笑顔で手を振ってくれた。今日は下北沢を歩くのだ。桜色のセーターの彼女は、前に悩みを打ち明けてもらったときよりもずっと軽やかになっていた。駅前は再開発が進み、若い人と外国の人で賑わっている。歩く人たちが皆々おしゃれに着こなしていて、まちが春めいていた。

下北沢が地元のちえこさんが、ここは「THE BLUE HEARTSの甲本ヒロトが昔バイトしていたお店で、わたしも小さい頃から通っていて…」「ここのクレープ屋さんはわたしが小学生の頃から通っているんだけれど、おばちゃんがこどものときから、なんと全く変わってなくて。…魔女なの!」と町案内を織り交ぜながら、付き合いかけたデイビットに恋愛詐欺にあった話など近況報告をしてくれた。「デイビット、わたしをhey baby お姫様として扱ってくれるから、楽しくって…」その次に出会った別のお相手は、初デートで遅刻してきた際に「ディズニープラスを見ていたら時間がいつの間に…」と説明してくれて、ああ、この人は詐欺師ではないなと安心したらしい。

もう5年近く前、ちえこさんと仕事をはじめたときに、なんて細かいことを気にする人なんだろうと思った。それが保身ではなく、相手が少しでもきもちよく過ごせるためのホスピタリティということに気づいたのは少しあとだった。むしろ自身は隙だらけ。何様と思いつつそう伝えると、「えー、気づいてくれてよかった」と笑ってくれた。