「あやうく一生懸命生きるところだった」の感想

hastur
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概要

40歳目前でで会社を辞めた韓国のイラストレーターがハ・ワンのエッセイ本。

「こんなに一生懸命生きているのに、自分の人生はなんでこうも冴えないんだ」と、やりきれない気持ちが限界に達し、40歳を目前にして何のプランもないまま会社を辞め、「一生懸命生きない」と決めた著者。

感想

久々に本を読み切ったので感想を書いてみる。

概ね著者と同意というか、何だか親近感が湧く著者だった。別に美大の受験もして無いし貧困家庭で育ったわけじゃないが、夢を追いかけた結果がボロボロになってある種の諦めというか一生懸命頑張る気持ちは無い側なのでそう思ったのかもしれない。

エッセイ本のなので著者の一貫した考えを説明するというよりは思ったことを書き連ねているだけなのだが、全体を通してみると「努力至上主義」もしくは「能力主義」をやめて、ありのままを受容しようというような主張を感じた。

僕もある種の挫折を経験して思ったが、一生懸命に頑張って人生をよくするという考え方は人を幸せにしないなと。

一見すると前向きな考え方だし希望があるように思えるんだけど、実際の人生は大体上手くいかないし一生懸命に頑張ったことが報われるというのはまぁ無いよね。無いというか一生懸命に頑張ったかどうかが結果に結びつくことは少ないので一生懸命がんばればいい結果が訪れるという嘘を信じて生きていくのは生きづらいだけだなと。

著者はまさに一生懸命頑張って3浪して有名な美大に入ったが、結局成功からは遠い人生を歩んで一生懸命に生きることを辞めて40歳目前で会社を辞めるわけだ。もし努力が報われるというなら著者は相応の対価を手にするべきなのだろうが、現実そうはなっていない。

結局のところ、努力すればいい結果が得られるという誤った認識は人の期待を過大にさせて失敗した時のダメージを大きくするだけに過ぎないのではないだろうか。

そして努力の果てに目指す成功も結局は人を幸せにしないのではないだろうか。

現状僕の人生は成功とは程遠いのだが、そんなときに慰めとして思い浮かべるある人物がいる。

Aviciiである。

ザックリ説明するとEDMで若くして成功したが28歳で自殺したアーティストだ。

「Aviciiは音楽の才能もあって若くして成功したわけだが自ら死んじまったわけで俺は成功はして無いけど生きてんだよなぁ」というのが慰めなのだが、結局のところ成功しようがしまいが人は苦しんでいるのではないだろうか。

一見幸せに見える、世間から観たら成功者と呼ばれる人が唐突に自殺をするようなニュースも見かける。

人は成功を求めて苦しんでいるときに、成功すればこの苦しみから解放されると信じて苦しみに耐えるわけだが実際のところ成功しようが苦しみは続いていくのだろう。

なので苦しみから解放されたいのなら成功するしないに目を向けず、そもそも苦しい現実を受け入れることにした方がたやすく、そして現実的なのではないだろうか。

そんなことを、この本を読んで思った。

結局のところ自分を受け入れ、ひいては苦しみ自体を受容することでしか人が安息を得ることは出来ないのではないだろうか。

努力や成功で現実をねじ伏せるというのも絶対に無理とは言わないが、成功した後も成功を義務付けられて一回の失敗ですべてを失うような恐怖と戦わなくてはいけない。

それよりも、成功してない自分、失敗する自分、不出来な自分というモノを受け入れて「ソレも含めて人生か、でも別に問題でも無ければ幸せに生きる障害でも無いな」と生きていく方が容易だし確実だと思った。

別に一生懸命に頑張るのも良いと思うが、それは多分辛い人生を歩むことになるので肩ひじ張らずに生きていく考え方にも触れてみて欲しい。

そういう時に、この本はおススメ。


こんなエッセイじゃぁ俺は納得できねぇぜ!

という方にはこちら、マイケル・サンデルの「実力も運のうち」をおススメする。

自分を特別優れた人間だと思っている人は知らないが、普通の人間は環境でいわゆる成否の大部分が決定されるという事を論理的に説明してくれる。