義母が娘に、とクッキーのキットを送ってくれた。こねた生地が入っていて型抜きするだけのようなものならいいのに、粉と型と飾り用のチョコペンが入っているキットだった。つまり、粉を計って振るう手間以外一切省かれていないわけだ。必要な量は卵一個の半分だとか、無塩バターが必要だとか。しかも生地はプレーンとココアの二種類あって、作り方は箱に書かれた簡易な手順だけ。私は料理が好きだが面倒なものは作らない。お菓子作りは時々するけれど、なるべく簡単にできそうなレシピをじっくり選んでから取り組む。
慣れていない人が、不親切なキットを使うのは逆効果だと思う。特に私のような神経質な人間には。何が正解なのかわからずネットで調べつつ基本的にイライラしながら、娘と一緒に作っていった。慣れないことを子供と一緒にやるのはかなりストレスが溜まる。娘だってイライラしたお母さんの指示を聞くのは嫌だろう。
それでもなんとか型抜きするところまできた。型抜きだって一筋縄ではいかないのだが(型から上手く抜けず壊れる→ネットで調べて打ち粉するといいと知る→打ち粉のやり方を検索する→見つからない→イライラ)時間と共に自然と丁度いい柔らかさになって上手く抜けるようになり、可愛い猫の形をたくさん天板に並べることができた。型の形がとても可愛らしいことはこのキットの唯一の美点だ。そして余った生地を自由な形にしよう、ということになった。私と娘は無言で一つの塊をこね始め、「できた!」と同時に出すと、それはドラクエのスライムの形をしていた。ドラクエにハマっているわけでも、話をしてすらいないのに、全く同じ形が大きさの違う二つの手のひらに乗っている。二人で大笑いして、これこそ親子でお菓子作りの醍醐味だ、と私は一人感じ入った。
その後は焼き→もう一つの生地の型抜き→焼き→チョコペンなどで飾り付けと暗くなるまで作業は続き大量のクッキーができた。娘が友達にあげたいのはたったの4つなのに、何故こんなにたくさん作る必要があったのだろう。最初から一種類の生地だけで作ってまた次回もう一袋を使えばこんなに疲労困憊しなかったと気付いても後の祭りだ。お金はかかるし味はまあまあ、イライラしながら取り組むお菓子作りを頻繁にすることは今後もないだろう。だからまた細かい作業について忘れてしまう。でも、同じ形を作っただけで大笑いしてしまうような幸福感は、ほかでは中々味わえない。娘の友達も喜んでくれたようだし、良い思い出だけ残ればいいなと勝手なことを思った。