葉山に移住して、ファッションを見直している。葉山っぽいファッションとは何だろう。
都内に住んでいた頃はモード系で、新宿のマルイにあるようなセカンドラインのブランド服を選んでいた。藤沢ではZARAやH&MやUNIQLOで無難かつファミリー感のある落ち着いた服を着ていた。夏はHarleyなどサーフブランドを普段着にして、ワークマンがブームになると話題のアイテムを色々と試してみた。若い頃に比べると、高いお金を払って服を買うということはしなくなったし、世の中的にもかつてよりファッションブランドの影響力は少なくなったように思う。
では葉山ではどうするか。海と山があり、美術館もある。ご近所さんはどことなくハイソで文化的なこの町。高齢マダムは御召し物が麗しく、海遊びが趣味のイケオジたちは目がキラキラしていて、同年代のパパさんは下北沢から来たかのような長髪ヒゲメガネのクリエイター風、ママさんたちはナチュラル系の丁寧な暮らしを感じさせ、キッズたちも育ちが良さそうなオーラを醸している。ダサいと浮いてしまいそうだし、せっかくなのでワードローブを入れ替えることにした。
葉山の有名なアパレルにげんべいがある。「げ」のトレードマークにインパクトのあるローカルブランドは芸能人御用達だが、さすがに庶民服なので全身コーデをすると野暮ったくなってしまう。色々と試したものの、グッズやワンポイントに留めて置くべきだと判断した。サンダルは今後も長くお世話になるだろう。
もう一つの町民ブランドにヘリー・ハンセンがある。葉山マリーナに旗艦店がある、ノルウェー発の海系アウトドアブランドだ。日本ではゴールドウインという代理店が扱っており、山系ブランディングのザ・ノース・フェイスと兄弟のような関係だ。
10年、20年前に比べると、これらのアウトドアブランドが普段着に深く浸透しているように思う。私がイギリスに留学していた20年ほど前、欧州人はアウトドアブランド、日本人はモード系、中国人は謎のダサい服、という感じだったが、今は日本が欧州化しアウトドアに、中国が日本化しモード系になったように感じる。COVIDとキャンプブルームがさらにアウトドアブランドのブームに拍車をかけた。都内のIT系ミートアップに参加すると、参加者の多くがザ・ノース・フェイスのマウンテンジャケットを着ていた、なんてこともあった。まるで量産型女子大生ならぬ量産型中年だ。一度アウトドアブランドをタウンユースすると、便利すぎて元に戻れなくなるのは理解できる。なので、私はヘリー・ハンセンを普段使いすることで、今や定番化したザ・ノース・フェイス被りを回避することにした。
そうしてヘリー・ハンセンから服をピックアップしていると、このブランドがかなり私の求めている葉山ファッションの要素を持っていると実感するようになった。私が山系ブランドに対して抱いている「タウンユースするために地味な色を選んだ結果、ビジカジに比べてただの手抜きに見える」「高級ラインでも高級感がない」という不満へのアンサーがあったのだ。
ヘリー・ハンセンも、売れ筋は普段着にできる地味な色のラインナップである。一方、古着も含め幅広く見渡すと、ボーダーや青系、トリコロールカラーなどを取り入れたマリンテイストの服も備えており、これが私の求めているものにピッタリだった。マリンテイストは、海系の趣味、欧州からの輸入、というどちらもリッチなイメージを連想させ、歴史的に見本も多いためオーソドックスにまとめても明るいカラーリングで洗練させられる。そしてこのテイストが「個人的に好き」というより「今の生活に合っている」という状況が私にシックリきている。必然性は理系にとって重要な要素なのだ。こうして、葉山ではしばらく「ヘリー・ハンセンを軸にしたオーソドックスなマリンテイスト」をファッションに取り入れていこうと思っている。白とネイビーが基本で、デニムなど組み合わせ青系コーデをしつつ、差し色に赤か黄色を入れる感じ。ググると海外セレブのイケオジには定番のようでちょっと恥ずかしくなったが、まあこういう分かりやすい方向性は悪くないと思っている。
普段着はヘリー・ハンセンに決定したものの、ビジカジのシュッとした服も刷新したいところだが、こちらはまだ答えが出ていない。ヘリー・ハンセンは葉山でいうとマリーナやリゾートマンションのある堀内エリアで、今探しているのは御用邸や美術館のある一色エリアに似合うブランド、という整理をしている。なんとなくだが、ややレトロな和風のブランドが良い気がしており、鎌倉シャツや三峰あたりかな、と思っているが、レトロで保守的すぎると急激にオッサン臭くなる気もしており、また国産ブランドはサイズ展開が少ないことが多いため慎重だ。サイズの問題はファブリックトーキョーのようなオーダーで解決できそうではあるが、服を買うたびにオーダーするのも面倒だし、なかなか難しい問題である。
そういえばOceanという雑誌があり、おそらく想定読者としては私はまさにピッタリだと思うのだが、あれを読んでいてもオシャレだなとは思うがカッコいいとは思わないことが多く、参考にしにくい。インスピレーションはもらうけども。おそらく、私はサブカル的なオシャレさよりも、オシャレに関心のない人にも伝わるようなわかりやすい方向性やオーソドックスさを求めているような気がする。顔や髪やスタイルや姿勢が良ければ、どんな服もまあまあ似合う、という状態が望ましい気はする。ファッションに拘りすぎるのは、軟派で女々しくてダサい、という価値化が根底にあるのかもしれない。
あと、マリンテイストで思ったことは、葉山という町は女性にとって居心地が良い町であり、男性も女子力を高めることで快適になっていく感じがする。暮らしを丁寧にするとか、キラキラ外食とか。マリンテイストは男性でも違和感ないが、どちらかと言うとカワイイ系の女性的なファッションだと思う。京急が「葉山女子旅きっぷ」なるものを発行しているが、これは葉山が女子向けの町であることがある程度浸透していることの裏付けであるように思う。男女平等の世の中なので性別で語るのは難しいが、これまで男らしく生きてきた人ほど、女子力を意識すると葉山に適応できそうな気がする。
さて、葉山ファッションについて考察したが、ファッションで服を検討する前に痩せるべき、という厳しい現実がある。とはいえ、葉山はアウトドアスポーツがしやすく、健康食にも恵まれているため、長期的にはなんとかなるだろう。