ボイスコンテンツの強みや独自性みたいなものを、小柳さんの手で骨の髄まで叩き込まれました。たすけてほしい。
いや、ほんとうにとってもよかったです……! ボイスの中で動くふたりの極端な情報の少なさだったり、状況をあえて明確化しない意地悪な言い回しだったり、そういうものにずっと振り回されっぱなしでした。わたしたちが聞ける範囲で描かれている情景は、あくまで雨に降られた末にふたりが小柳さんの家に身を寄せることになったあとのワンシーンなんですよね。けれどもそれ以前、あるいはそれ以降にも、連続性のある時間がふたりの間に流れているであろうことを推察できてしまうのが、単なるシチュエーションだけでない深みを形成していてすてきでした。べつに事件性とかもなんにもない日常のひとコマの話なんですけど、個人的にはこのふたりの間になにがあったのかが気になって仕方がない……
以下EX含めたネタバレ込みの感想です。今回ややネタバレが激しめです! ボイスにおける相手役は便宜的に「わたし」と表記しています。
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明らかにふたりの間に一定の好意があるのに、それについてふたりともなにも言及しないせいで、わたしが勝手にどきどきしてるだけなのか?っていうちょっとしたおびえを抱き続けてました。彼シャツに呻き声をあげるな小柳……雷が怖くてどうやって生きてきたんだよ「わたし」は…… 恋愛頭脳戦じゃないけど、なにかしらの意図がふたりの間を行き交う瞬間は確かにあるのが、ほんとうにある種の探り合いっぽくてはちゃめちゃに緊張してしまった。
けれども同時に、小柳さんが「わたし」の不安定で敏感な心情を案じてそばにいてくれたり、「わたし」が小柳さんの声であっけないほどすぐに眠ってしまうところなんかに、ふたりの間に流れる明らかに緊張感ではないなにかを感じられるのがめちゃくちゃよかったです。小柳さんのボイスに対してよく言われる糖度って、直接的な甘い台詞というより、全体を通して「わたし」は小柳さんという人に心を許されているんだっていうある種の環境的な自負によるあたたかさが近いような気がするんですけど、それをほんとうにすごく感じました。ちょっとだけ、動物を手懐けてるみたいな感覚を覚えちゃう。
だからこそ、本編が針鼠のジレンマのような距離感だったのに対してEXがものすごいアクセル踏んできたな!って思うんですけど。というか、「もう一日」って言い回しをしている以上、前日もふたりで何かしてたんですか……? だとしたらだいぶ距離感の感覚が変わってきませんか? でもなんというか、朝ご飯はともかくとして、小柳さんがそういう対価に至ることはなんとなくわかるような気がしなくもないなって。べつに誰かを傅かせたい人でもなさそうだし、ほんとうに「わたし」となにかしたいんだろうなあ。小柳さんの言う「朝ご飯」、とってもかわいかったです。
それはそれとして、添い寝らしきことをしているシーンは結局なにをしてたんですか? 小柳、わたしなんにもわからないよ。湯たんぽっていう形容や香りについての言及からは抱き締めてたと考えるのが自然だけど、他にも例えば向かい合って目や耳を塞いでるとか、「わたし」の髪に指を通して頭を撫でてるとか、そういう可能性も考えられなくはないわけで。明確な状況がわからないからこそ、衣擦れの音がした瞬間に恥ずかしいくらい心拍数がどっと増してしまったんですよ…… いまでもボイスを聞くたびにそこで心臓がばくばく高鳴ってるから、小柳さんが黙ったシーンで鳴る物音が効果音なのかわたしの心音なのかわからなくなってます。そういう緊張を予想して余白を作ったのか?ってレベル。意図していたのら恐ろしいし、意図していないならいないであまりにも間の取り方が上手すぎる。あれ、ほんとの正解はなんなんだろうね。わたしには一生わかる気がしません。
あとはメタ的な演技面の話なんですけど、このボイス全体を通してときどき見られた、言い淀んでるときの小柳さんの演技感がめちゃくちゃよかったです。気まずい空気、よくご存じで…… 冗談はともかく、今回は特に声に含みを持たせつつ、一方で真摯さを感じさせてくれるシーンが多かったような気がするので、それに違和感なく気付かせてくれる小柳さんの演技の案配がすごく好きでした。中盤ごろからの添い寝をするか否かの攻防のところが、ずっと半笑いかつまっすぐなやさしさが見え隠れしている声のバランスになっていて、それが表情や状況とかのさまざまなものを想起させてすごくいい意味でぞわぞわする。表情が見たくてもわからない不安と期待は、映像のないボイスコンテンツだからこそですよね。これ、もしもバイノーラルだったらどうなってたんだろう……
こうして振り返ると、本編の最後が小柳さんやオトモの台詞で終わるんじゃなくて、あくまで扉を閉めた音だったのがすごくよかったなあってしみじみ思う。小柳さんって配信とかでもときどき目に見えて黙ることがあったり、頭の回転の速さのわりには結構ゆったり喋る場面もあったりするように感じているんですけど、そういうまろい感性の部分を覗き込めた気がしてうれしい。小柳さん、やさしい余韻の作り方がすごく上手だなあ。