「小柳ロウ 家族パロディボイス」感想

あわせ
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公開:2024/5/25

 「違和感がないのが違和感」 「これ聞き続けたら催眠術みたいになりそう」

 聞き終えて真っ先に出た正直な感想がこれでした。小柳さんはオタクをどうしたいんだ? 昨年の五月に出たボイスの再販なので、最近に出たボイスとは声も演技の感じもかなり違うは違うんですけど、やっぱり息遣いとか言い回しとかに圧倒的なリアリティを感じてしまうのが、今回に限ってはほんとうにまずい。このテーマでリアリティがあったら逆にまずい。よしんばわたしがボイスに感情移入するタイプではなかったとしても、狼の縄張りに足を踏み入れることがゆるされて、彼のやわらかい距離感を知ってしまったという事実だけでいくらでも気が狂ってしまう。小柳さんの持つ家族という共同体に対する認識が滲み出ていてほんとうにだめでした。できればなにも情報を見ずに聞いてほしい……

 以下ネタバレ込みの感想です。ボイスにおける相手役は便宜的に「わたし」と表記しています。

 まず、情報の密度がはちゃめちゃに高くてびっくりした。最近のボイスに比べて比較的早口めで流暢というか、いわゆる演技としての聞きやすいテンポというか、そういう発声なのもあってそもそもの台詞量が多いんだけど、それにしても聞いたときの満足感がものすごい。小柳さんのボイスって比較的説明台詞っぽい台詞が少ないというか、環境によって状況を聞き手に把握させようとする意図が強いように思うんですけど、今回は特にそう。聞いているうちにわたしは小柳さんと一緒に暮らしていたんじゃないかっていう存在しない記憶が溢れてくるので、なんかもっと長い時間を過ごしてしまったような気すら覚えてしまってこわい。わたしはどうしたらいいの? このボイスが五分強しかないとか嘘だよ……

 サンプルを投稿してたツイートで小柳さんは「俺は夫」って言ってたけれど、聞いた感じはどちらかというと夫婦というよりパートナーというか、行き過ぎた同居人というか、そういう感覚が近いのかなあとも思ったり。上で「縄張り」って表現を使ったけど、個人的にはそういう、帰る場所としての家をふたりで守る存在みたいな、いい意味での平坦な信頼と愛情があるのかなって思いました。ただ小柳さんはなかば冗談とはいえオトモちゃんに嫉妬してたりするわけで、もちろん夫婦として相手のいちばんでありたい気持ちはあるんだろうな。

 「わたし」がゲームをしたい小柳さんを引き留めてるとき、最初はいつものわがままだなあって流していた小柳さんが、ちょっぴり体調が悪いって「わたし」が白状した途端にがらっと声のトーンが変わるところにちょっとぞくっとしました。愛されてるんだなあ、「わたし」。でも「わたし」も小柳さんが心底好きで心酔してるんだろうなって言動が節々で見られるので、たぶんこのふたりは割れ鍋に綴じ蓋なんだろうな。なんていうか、自分のやりたいことを無理して曲げずに、でも確かに相手を気遣ってくれる小柳さんのゆるやかな距離感って、疲れたときにめちゃくちゃ効くんですよ…… いや洗濯くらいはしてほしいけど! ダメージジーンズが色落ちして返ってきても知らないからね。

 あと、これはちゃんと褒め言葉なんですけど、「わたし」がグッズやボイスを買っていることに苦言を呈するシーンが、ちょうどいま現実でボイスを聞いている自分とオーバーラップしてめちゃくちゃこわかったです。べつにわたしはこういう聞き手の姿が見えないボイスコンテンツに感情移入するのは得意な方ではないんですけど、それでもこの台詞を聞いた瞬間、一瞬でも家に帰ったら小柳がココアを持って出迎えてくれるかもしれない、って思ってしまったのがすごく怖いし悔しい。立派な催眠術だよもう。

 全体を通して、小柳ロウという人格の持つ家族観や、それに由来するであろう「わたし」に対する息遣いや温度が感じられてとってもよかったです。最初はボイスサンプルの「俺は夫」の言葉にめちゃくちゃびびってたんですけど、いざ聞いてみると小柳さんが兄や弟とかの血縁関係じゃなく、あくまで元は他人であった夫という関係で家族になろうとするのがすごくわかってしまって…… なんというか、小柳さんって感覚として誰かに(合わせる、ではなく)寄り添うところがあるんだろうなあ。凍えている誰かを暖めてくれるように。そういうところは、初配信のストーリーしかり、初めての歌動画しかり、節々で現れているような気がする。

 というか、このボイスを聞いたあとに聞くGOOD BYEがほんとうに効くんだ…… これはボイスを踏まえた二次創作ですけど、暗殺者をしていてヒーローをしていて配信をしている「今」の小柳さんが出会う相手である以上、きっと「わたし」は九分九厘ふつうの人なんだろうなあ。上司が嫌って話もしていたし、たぶんわれわれの想像する生活水準となんら変わりのない等身大の人なんだと思う。だとしたら、よほどのことがない限り「わたし」は小柳さんを先に置いていってしまうわけで…… もしかしたら小柳さんが「わたし」の体調に敏感な反応をしていたのも、そういう考えがあってのことなのかもしれない。なんかそういう、ふたりの過ごす時間に思いを馳せてすごく切なくなってしまった。

 よく小柳さんのボイスは別人とか言われるし、それこそGOOD BYEとかも声やら選曲やらから誰?って言われてるのもよく見るんですけど、個人的には知れば知るほどボイスも歌もすべてが一貫しているような気がするんですよ。一貫してるというか、ボイスや歌で見せてくれるようなやわらかいところを常に見せてくれるわけではないけど、そういう内面的な情感もまた彼の根底にあるんだろうなあ、ということもまた感じられるというか。すごくストレートだし、すごく真摯だなって。

 小柳さんのGOOD BYE、MVも含めて内面的で透き通った美しさがあっておすすめです。聞いていない方はぜひ。

@hb558
ネタバレ感想系など