2080/6/18に時間に質量があることが判明した。記憶の連続する物語構造を無限に細分化することは演算不可能だと頭の硬い学者はまるで示し合わせたように諳んじる。しかし、質量という測度から見れば行為はパンを細切れにするのと同じ工程。
時間の質量が無限に近づいていくほど空間が歪みに耐えきれなくなりやがて空間は強烈な地震を引き起こす。そのとき時間の堆積により鎮められていた様相の大陸アトランティスが現出することが彼にはわかっていた。
時間の質量を測るのに用いるのは鬱病を発症している患者だ。彼らのメランコリーな脳神経回路の発信と時間の質量は相関する。彼は鬱病患者の脳天に電極を差し込み、時間の質量の特異点を探し世界を旅していた。
あるとき、電極を刺していた鬱病患者が異常行動を日本で行った。髪をピンクに染め、年齢とは凡そかけ離れたヒラヒラのゴシックロリータのスカートを纏いながらメンタルクリニックで地面の写真を繰り返し撮り始めた。その時の論理震度は極大までふれていた、おそらくこの国で空間震が発生すると確信した。
日本にアテをつけ、全国を飛び回ったが殆どが森と無味無臭の住宅街で鬱病女にも変化はなかった。しかし、純喫茶やスターバックスの近くに行くと係数が振れる。彼なりに日本を理解して訪れた先は秋葉原だった。
秋葉原での女のメランコリーっぷりは尋常ではなく、いわゆるネットの「ミーム」と言われる断絶された記号をかき集めた言語体系を可聴不可能なレベルの速度で生成しながら、ブロンを飲み続けた。彼女を救急車に載せたあと、最も震源に近いと考えられる裏道の電気屋に入った。
仮説は本当だったようでまるで書き換えられたかのように、日本はアトランティスと交代した。様相に存在する世界が混合することの辻褄の合わなさを理解している自分にホッとした。アトランティスには黒いふやけたブルドックのような姿をして地べたを這いずる5mほどの生き物が混生していた。
「なぁ、世界に放つ意味はなんなんだ?そして何を放っているんだ?」
<医者>が彼に説いた。
「人が人を理解できないこと、人が人に理解されたいこと。成長が存在すること、死が存在すること」
絶望も世界規模だと微生物の食物連鎖のようなものかと、少し笑える話だった。