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hhq412
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 蒜山高原に行った。雪が積もっているのを見れた。今年はじめて。外を眺めながらチーズフォンデュを食べて、ワインと焼き菓子とジャムを買って、帰ってきた。

 岡山県の北は毎年雪が降るししっかり積もるけれど、南は全然降らない。降っても気持ち程度。というかすぐ溶けてしまうし、何年かに一度は積ったりもするけどほんのちょっぴり。1cmくらい。わたしは南に住んでいる。だからたまに降ると珍しくてすごく嬉しい。

 雪景色に憧れがあるくせに、車の運転が怖いから雪国への旅行はほとんど行ったことがない。北海道は何回もあるけれど、いつも夏だ。

 いつかの冬に一度だけフィンランドとスウェーデンに行ったことがある。わたしはそこではじめて海が凍っているのを見た。昼間でもずっと薄暗かった。夏になったら皆が太陽を求めて外に出るらしい。公園はいつもにぎやかだと聞いた。厳しい冬は、しかしきっと長いから、家にいることが多いのかな。そんな家時間の居心地を良くするために、北欧のインテリアは有名だし素敵なんだろうか。

 妹とのふたり旅だった。はじめてそんなに寒い国に行くから、山ほどカイロを持って、ぶあついムートンコートにムートンブーツ、耳当てやらニット帽やらヒートテックやらも買って、わたしたちは完全防備だった。通っていたデザイン学校でわたしが作ったものを見てくれた先生から「あなたは素敵なものをたくさん見ているのね」と言われたのが嬉しく(今でもこの言葉を思い出すと嬉しい。実際に今、嬉しい気持ちになっている)て、普段の生活でも旅行中でもますます目ん玉をかっぴらくようになっていたのが確かこの頃だ。街中をきょろきょろ眺めながら歩き回り、美術館やらイッタラの工場やらを巡って、気になるところにはかたっぱしから入り、郵便局(日本でいうゆうパックの箱がマリメッコ柄だったのに驚いた)とか本屋さんにも行った。目の奥の方に焼き付けるように、さまざまなものを見つめたのだった。

 完全防備のもこもこなふたりは、しかし寒くて合間に休憩ばかりしていた。休憩のたび、入ったカフェで温かいものを頼んだ。ブラックペッパーが効いたサーモンスープが冷たくなった体に染み渡っていくあの感じはまるで喜びだった。わたしはあの旅行でスープが大好きになった。どこの店の前にも日本では見たことのないような大きいキャンドルが置かれていた。キャンドルの灯りがふわふわの白い道に静かに連なっていて、積もった雪に反射して綺麗だと思ったのを今でも覚えている。キャンドルも旅行中に大好きになったもののひとつ。どのカフェに入ってもテーブルの上に小さなそれがさりげなく置かれていて、火がゆらゆらと揺れる様は人間の心を安心させるのだと知った。フィンランドよりスウェーデンの方が大きな街で、わたしたちはたくさん買い物をした。スウェーデンの人はわたしたちが道に迷っていたら声をかけてくれたし、フィンランドの人も皆親切で優しく、どちらの国も心地よくて好きだった。

 美しい太陽光で満ちる夏の北欧も一度行ってみたい。白夜だから夜遅くまでたのしいらしい。けれど、またあの雪景色の中に飛び込みたい気持ちもある。懐かしいことを思い出しながら、「今年はお金をためて、どこか国内で雪の深いところに旅行しようか」と家族に提案した。読みたい本を何冊か買って持っていき、見晴らしのよいところに泊まりたいと思った。