正直言って怒ることがめんどうくさい。よく怒る人はエネルギーがあってすごいなあと思う。悲しむのもめんどうくさい。ふつうに疲れる。
妹が子どもに振り回されて怒ったり泣いたりよくしている。それを聞きながら、なんてエネルギッシュな人なんだと思う。妹は昔から愛嬌があって、しかも天然でずれたところが多いので、真剣に怒ったり泣いたりしていてもちょっと面白い。変なことで泣いたり怒ったりしているときは愚痴を聞きながらも笑えてくる。わたしが耐えきれずに爆笑すると、妹もつられて笑い始める。そもそも妹の泣き顔があまりにも不細工で面白い。妹の可愛い顔は、いったん涙が溢れるとそれはもうぐちゃぐちゃで、コミカルで4コマ漫画みたい。泣き顔が不細工というのは姉妹の間でもずっとネタになっていた。
内容は忘れてしまったけれど、なんらかの原因で妹が傷つき、涙を堪えてわたしに話をしてきたことがあった。つらくてつらくて泣きたいけれど、泣けないようだった。わたしはいつもの悪ノリで作ってしまった不細工ネタを心底後悔した。わたしのせいで泣けなくなっている。堪えている妹に「泣いて良いよ。笑わないから」と言った。すると妹の目から堰をきったように涙が溢れ出し、その顔がまた個性的な面白さで歪んだ。わたしは神妙な顔をはりつけて、しっかり聞いてあげよう、笑ってはいけない───とか思った次の瞬間には爆笑していた。最悪な姉である。だけど妹も「笑うのかよ!!!」とつっこんですぐに釣られて爆笑していた。涙というデトックスが済んでしまえば、結局彼女は平和なのだった。
自分の泣き顔もかなり不細工なことに気がついたのは妹とふたりで高校からの親友の結婚式に出席したとき。白無垢をまとった親友が舞台に上がり、写真を撮らなきゃとカメラを構えた瞬間には泣いていた。鼻の奥がつんとなって頭が痛くなるという、今にも泣きそう、みたいな前兆が全くなく、気づいた時にはぼろぼろと涙をこぼしていて、こんなことは初めてで、自分でも驚いた。体が瞬時に反応した、嬉し泣きだった。大好きな親友は世界一尊敬してるかっこいい女でもうずっと仲がいいから、出会ってからこれまでのことを誰より知っている。そんな友がいろんなことを乗り越えて、今好きな人と結婚しようとしている───。あふれる涙を止められず、しかし親友の晴れ姿を撮りたい一心で堪えて目をかっぴらき、急いで出したハンカチでぬぐいながら写真を撮って、あとは目に焼き付けた。その間、妹はいそいそと私の写真を撮っていた。「横から撮ったからすっごい迫力だったよ!」と嬉々として見せてきた泣いている私の写真はまるでカバのようで、というかかなりカバで、しかもシュッとしたそれではなくとにかくブスなカバだった。いやマジでごめん、あんたの泣き顔笑う資格なかったわ。ふたりですっごい笑った。さすがにブスすぎる。わたしたちは泣き顔がめっちゃブスな姉と泣き顔が面白い妹だった。
カバ(わたし)の泣き顔はあまりにも面白かったので文字を入れ、ラインのスタンプみたいにしてしばらく使った。結婚式のグループラインでも飛び交った。今見てもかなり面白い。