読書が好きで、なんというか、本という物体がまず好きで、嬉しいことがあった時にケーキを買って帰るような心持ちでたびたび購入する。好きな作家の新刊であったりとか、たまたま触れて装丁の手触りが忘れられなくなってだとか、本屋の端にある売り上げランキングに入っていただとか、きっかけはさまざまで。だけど読んだらたいてい手放してしまう。我が家の本棚に収まっているのは未読の作品と何度も読むいくつかのお気に入りの本。紙の漫画本は読み返したいと思う好きな作品しか基本的には買わないから、続きものが多い。
定期的に読み返しているのは「思いわずらうことなく愉しく生きよ/江國香織」で、このまえ久しぶりに読み返したときに初めてVERYで連載されていたものだと知って驚いた。好きなシーンは育子があんパンと牛乳をあわせて摂るところ。それから治子のことを「カウボーイみたいだ」と思うところ。そもそもタイトルからして好きだ。自分の人生の原則にしているくらい。高校生くらいのころに初めて読んでから、とにかく気に入っていて、引っ越しなどの生活の変化でうっかり失くしてしまったら新しく買う。そしてまた見つける。気づけば今では本棚に三冊並んでいる。
江國香織さんはとにかく文章が好きだから色々読んでいる。「思いわずらうことなく愉しく生きよ」と並んで「神様のボート」も好き。これを読んだとき「一度出会ってしまえば人は人を失わない」という言葉が考え方のひとつとしてすんなりと入ってきて、その時からわたしはずいぶん力強くなったように思う。失くしたくなければ自分の中に大切にとっておける。骨ごと溶けてしまいそうな恋愛をした両親、その間に生まれた娘。どこへ行くにも馴染まない母(彼女が馴染むのは多分夫のいる場所だけ)と先々で友人を作って確実に生活する娘(だんだんと「ふたりでひとつ」なのが「ひとりとひとり」に別れていく)の旅の物語。
手放さない本は他にもある。「放課後の音符/山田詠美」「センセイの鞄/川上弘美」「西の魔女が死んだ/梨木香歩」「こころ/夏目漱石」───「テスカトリポカ/佐藤究」は一度しか読んでいないけれど、おもしろすぎてまたいつか読み返したいと思っているからぜったいに手放さない。
今日の記事は、読書好きな友人へ。本屋さんで思い出したら手にとってみてほしいなと思って。