読書『オリーヴ・キタリッジの生活』

hibi
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なんて歪に波打つのだろう、人生という名の曲線は。不意にまわる幸と不幸、そこに漂う残り香がいっそう心を重く沈める。

言葉足らずの日々に不可逆な濁りを宿してなお、それでも蕾は芽吹くのだからと この物語は囁いている。

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ひとにはそれぞれ、自分を取り戻すことができる大事な場所というものがある。それは文字どおりプレイスかもしれないし、だれかの腕のなかや眼差しの隣かもしれない。そこに繋がる道を歩きながら、仮面をはずし、着ぐるみを脱ぎ捨て、その姿を変えていくのだ。

人間って本当に多面的だなと思う。右から見ればあんなに逞しく、左から見つめた途端こんなにも崩れそうに脆い。わたしが思うわたし、あなたが知ってるわたし。けれど、きっとどれも本当のわたし。

「いま」 のありがたみを 「いま」 この瞬間に感じることはとても難しいように思う。それは未来の自分を大いに苦しめるほどに。あの時の触れ合い、あの時の問いかけ。しっかり噛み締めていれば、十分に受け止めていれば……不可逆性の残酷な重みを感じずにはいられない。

──それでも。

《それでも時は流れる。転じていく。》

ストラウトの作品はそんなことを思い出させてくれる。

人生のしょっぱさに胸があおられ休み休みにしか読めなかったけれど、著者特有の穏やかなラストが一切のわだかまりを消し去ってくれた。

@hibi
氷々|たなびく思考と偏愛のひび