
その空洞が埋まる安堵、慈雨を吸いこむときの高揚。無から有へとひっくり返り景色が変わるその勢いを、まるで初恋みたいに思った。
頁の嵩が減るほどに、わたしの人間性さえ朽ちゆくようだ。
邂逅の末路を見届けながら存外苦い 「ああ」 がひとつ、床に転がる──ああ 解っていたはずなのに。
──────────────
手に負えないものを掴んだとき、ひとは、わたしは……。
普段どの程度の理性を持って生きてるんだかボヤけてしまい、読めば読むほど自身への信頼が失われる気持ちになる。彼が異常なのか、異常なものを手にした結果なのか、自分だったら異常を避けられるのか……何ひとつ不透明で心細い。
わたしが目撃したのは彼の初恋だったのだろうか。あなたを理解したい、あなたのための自分でありたい、あなたの期待に応えたい。この結末が、そんなままならない (けれど 実にありふれた) 感情の成れの果てだとしたら、ややもすれば誰だって……と胸の奥が粟立ってくる。
淡々と心情を吐露され、こちらまで汚れるような嫌悪に塗れてなお、なぜこんなにも読まされてしまうのか……頁をめくる手が止まらないんだよ!そして河出文庫のちょっと厚めの紙、すごくいい。
※ 念のため、動物がお好きな方はすこしご注意くださいね (わたしは読んでいて軽く心が死にました)。