次元の彼方より

Chiaki
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昨年の年明けから数か月、怪我の家族を朝送っていく生活をしていた。

最初は怪我人の荷物を持ち駅まで付き添ったが、そのうち途中の橋の上から後ろ姿を見届けたのち元来た道を引き返し、仕事に向かうようになった。

定期的にほぼ同じ時間帯、同じ道をゆくようになると、あ、この人このあいだも会ったなと思う顔ができる。そのひとりに、犬を連れて歩く年配の男性がいた。むしろもうその人しか覚えていない。とて、とて、とて、とゆっくり歩く小さな老犬の良き相棒を連れ、毎朝の散歩を日課にしているんだろうなと思った。

そんな一見ふつうに見える人物をこっそり“多次元じじい”と命名していた。

『デス・ストランディング』というゲームがある。主人公のサム・ポーターが繋がりの断たれた北米大陸でバイクを操り車を走らせ、ときには徒歩で駆け回り、国道を作りつつ各地に物資を配達する、あの小島監督のゲームだ。マルチプレイ要素はないが、同じゲームを遊んでいるプレイヤーが設置してくれた設備や物資が攻略の手助けになる。この崖に梯子がかかっていたらいいな、と思う場所に誰かのロープが残されていたり、物資の金属が足りないな~といういときに共有ボックスをのぞくと誰かが預けておいてくれたものがあったりする。

わたしのサム以外に、世界のどこかでプレイしている誰かのサムが同じ次元に複数存在しているというわけだ。夏頃から引き続きプレイしていたわたしはすぐにそれを連想した。

“多次元じじい”はわたしの前を歩いていたと思ったら、後ろから現れたりする。追い越したと思ったらまた前を歩いていたり…… あれ??さっきも会わなかったっけ??と最初はかなり混乱した。

「なんで後ろにいんの? 怖くない??」「多次元じじいだからだよ」

いやいやいやそうじゃない。真相は、その男性もわたしと違う道をどこかまで行ったら引き返してくるので、行きは前を歩いているが戻ってくるときはどこからか合流して後ろを歩いているだけなのだ。気づけばたいした不思議もトリックもないのだけれど、わたしもたいがいゲームに毒されている。でも、ほんとにあらゆる時間と次元に同時に存在できるかもしれないじゃん? そうじゃないって誰も立証できないし。

しばらくして、多次元じじいを見なくなった。あちらもあちらで、自分の後ろにつけていると思ったら今度は前に現れる多次元のわたしが怖くなったのかもしれない。わたしももう朝にその道を歩くのをやめてしまった。

どこかの次元で、男性と小さな老犬が息災でありますように。

FF13-2、あれも確か主人公ライトニングが時空を超えたヴァルハラにいるので、あらゆる次元に同時に存在できるんだったと思いだす。エンディングを見るとオープニングが理解できるつくり。無印よりも続編の2作のほうがストーリーは好きだったな。

今日のごはんは広東式麻婆豆腐。いつも買う四川式麻婆豆腐のもとより甘めの味。豆板醤を足して作る。白い悪魔と知ってから(腐ってても味が変わりにくいらしい)豆腐の賞味期限に気をつけるようになった。明日はトマトらーめんにしようかな。

@hica
思い出のまじった日記みたいなエッセイみたいなものを書いています。