2023/11/24_選ばれた服たち | ひだり

hidaritomigi
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日記って、「だ・である調」がいいの?それとも「です・ます調」?どっちでもいいのかな。今回はゆるやかに「だ・である調」で行きたいと思います。

2023/11/24

 天気は晴れ。雲ひとつない空をここ数日毎日みている。快晴のお手本と呼んで差し支えない。雲がないので、建物の中からは風の速さがわからない。外へ出てみて初めて本当の天気を知る。雲が教えてくれる情報は思っているよりも多い。ほとんど風はない。だから歩く速度が風速となる。風速を定めているのは私であるという自負が、私と季節の距離を縮める。月は上弦で毎日少しずつ満月へ一歩一歩近付いている。健康診断に向かう途中なので足取りはやや重たい。注射がきらい。

 駅に着くといつもまわりの人の服を見る。ひとつひとつの装いを丁寧に見るのではなく、地図に描かれた丘陵の流れを撫でるように全体をぼわぁっと見る。冬になると全体的に黒やグレー、ネイビーやブラウンへとトーンダウンする世界のかたまりが、今日のように明るく温かい日には少し華やかさを取り戻す。選ばれた服は、選ばれた言葉と同じような特別さを持っていると思う。気温、行動、予定、出会う人、場所、気分、なりたいものに合わせて選ばれた服たち。選ばれなかった服の代わりに、私たちを外の世界と繋ぎ、守る服たち。

 昼下がりに陽光がたっぷり差し込む秋の広い路地でタバコを吸っているおじいさんを見かけた。彼にとっては日常の一コマ、やたら体が重く気怠い時間だったとしても、私にはまるで映画のワンシーンのように象徴的だった。タバコを扱い慣れた彼の指先のしぐさ、上下にまとまりのないジャージ、明らかに座る場所では無いはずの垣根がその瞬間だけは人を迎え入れて背景になることを許している不思議。 もしかして私たちの日常も誰かにとっては信じられないくらい絵になるワンシーンなのかも、と思ってみたりした。

 でもわざわざ自分からそんなシーンらしい瞬間を目指そうとは思わない。他人から見られているという感覚とどうにか距離を置きたいのだ。

 そういえば、小さい頃は完璧を目指していた。一番になりたいと思っていた。でも一番になりたくて必死に手を伸ばすと、知らずのうちに自分の世界が広がって、できることや学ぶことの楽しさや面白さとは裏腹に、最果ては私の前からぐんと遠のく。私が一番だと思い目指していたものは、広がった世界の中では100番かそこらでしかない。RPGでマップが広がるときのような感覚に近いのかもしれない。世界の広さを知って、見えるものが増えて、私は私の立ち位置を再度確かめ直す。世界は拡張する。最果ては遠のく。手を伸ばす。世界がまた拡張する。最果てはどこ? 手を伸ばす。世界はまた広がる。最果てだと思っていた場所は、まだ遥か遠い。

 私は絶望した。頑張っても無理じゃん。どう足掻いても追いつけないじゃん。アキレスと亀のパラドックスのように、私はいつまで経っても私の目指す場所へ辿り着けない。どうせ自分よりすごい人がいるんだ、と他者との相対でしか自分を計れない。今でこそ視点の支点を変えることができるようになったけれど、あの頃はずっと何かに追われるように生きていた。

 あれ、これって最近ヒーリングっど♥プリキュアで見たよね?あれって誰にとっても普遍的なことなんだ、と選ばれた服を着た人々を見て思う平日の昼。

 今日はここまで。

ひだり

@hidaritomigi
ひだりとみぎが交換日記、もとい二人日記を書いています。アイコンの犬がかわいい。