前回に引き続き,精神病理の階層的分類体系(HiTOP)の基本的前提に関する論文で参考になった点をまとめておく。網羅的なまとめを知りたい場合はAwais Aftabさんのsubstackを読むべし。
次元性や階層性の仮定
精神病理学の文献において,次元という用語は3つの異なる意味で用いられている。
指標の均質性や共起のパターンを考慮せず,連続体上にあるものとして操作化された臨床カテゴリ(例:抑うつ評価尺度における症状の数,あるいはボーダーラインパーソナリティ症のようなスペクトラム上に位置づけられる診断プロトタイプ)
経験的に同質な構成概念に基づいて操作化された次元(例:一次元因子モデルの適合度によって定義される因子得点)
連続性,同質性,構造的区別を特徴とし,弁別的妥当性のエビデンスを有する階層的文脈内における経験的に独立した区別可能な構成概念
HiTOPにおける次元性は3つ目の解釈に従っており,個体群における個体間の症状分布が連続的であることを指す。したがって,個人内における症状の有無や経時的な変化についてはどんな仮定もしていない。
HiTOPと規範的価値
価値中立的な科学は不可能であると認識することは,価値観の影響を理解してマネジメントすることに焦点を移すという生産的な転換を可能にする。HiTOPの主たる価値観は認識論的であり,モデルの開発においては非認識論的価値観よりも優先される。
科学における「厚い概念」(記述的要素と規範的要素を併せ持つ概念)は,事実と価値観の境界を曖昧にする。「病気」「健康」「精神病理」は,こうした厚い概念の例である。精神病理,病気,障害はしばしば価値観が込められた概念と見なされており,どのような症状・特性・特徴が病的であると見なされるかに関する判断は,事実のみに基づいて下されるものではない。たとえば,自閉症やその他の神経発達障害を「精神病理」とみなすか,あるいは「神経多様性」とみなすかという最近の議論は,病理に関する価値を帯びた判断をめぐる根本的な意見の相違を反映している。
「危害」「苦痛」「障害」といった評価的概念がその定義に不可欠な要素となっている場合,科学的概念は強く規範的である。対照的に,弱く規範的な構成概念は,科学的概念の適用や操作化によって影響を受ける。それらは概念の定義において根本的な要素ではない。たとえば,Wakefieldがいう有害な機能不全という疾病観において疾病は強く規範的な概念であるのに対し,Boorseがいう種に典型的な機能からの統計的逸脱によって定義される疾病は弱く規範的である。
これと同様に,分類体系もその目的や認識論的価値と非認識論的価値のどちらを重視するかという点で弱く規範的あるいは強く規範的となり得る。たとえば,DSMやICDにおいては,信頼性や妥当性といった経験的目標が,臨床的有用性や臨床的意義に関する目標と密接に絡み合っており,それゆえ強く規範的である。対照的にHiTOPの中核モデルは,主たる目標が精神病理学の各領域間の共変パターンをマッピングすることであり,非認識的価値は二次的な役割しか果たさないため,弱く規範的である。