サイバネティック・ビッグファイブ理論(CB5T)。CB5Tでは,パーソナリティ特性のビッグファイブ(外向性,協調性,勤勉性,神経症的傾向,開放性)を動的でサイバネティックな側面から記述し,ビッグファイブのメタ特性として安定性(stability)と可塑性(plasticity)を想定している。安定性と可塑性を解説した第5節をまとめておく。
CB5Tにおける安定性と可塑性の位置づけ
第4節でビッグファイブを説明するために提示されたサイバネティクス的枠組みでは,環境に対する人間の継続的なサイバネティクス的適応を既存の目標や戦略の中から選択するという観点から記述しているものの,新たな目標や戦略の創出は十分に論じていない。しかし,CB5Tには2つのメタ特性に関連した適応に関する説明が含まれており,その特徴的適応の集合が平凡なものから根本的なものに至るまで様々な形で変容し得るという点を説明することができる。
サイバネティックシステムにとっての根本的な問題はエントロピーであり,心理的エントロピーの増加は,予測が外れ,現在の状態が完全に予想通りではない場合に生じる。これは,ある解釈が無効化されたため(「何が起きているのか?」という疑問)か,戦略が目標達成に失敗した,または失敗すると予想される(「どうすべきか?」という疑問)ために生じる(文献; 文献)。あらゆる経験は予測との一致/不一致に基づいて分類することができ,不一致は心理的エントロピーを増大させる。
心理的エントロピーの増加は脅威となるが,それと同時に有望なものでもあり,インセンティブ報酬として機能する。なぜなら,特定の報酬を獲得するか情報を得ることで,長期的には心理的エントロピーを低減できる可能性を示唆しているからである。人は未知に対して両義的な感情を抱くが,良いことも悪いこともすべて最初は未知から生じる。この事実は,未知から潜在的な利益を引き出し,異常な経験を予測可能な経験へと変換することを目的とした行動の類型として探索が存在することを説明する。未知に対応するこれら2つのメカニズムは,未知に内在する脅威と可能性という2つの基本的な人間のニーズを満たすために進化した。このニーズの一つ目は,進行中の目標指向的な機能の安定性を維持することである。二つ目は,新規または異常な情報を既存の知識と統合するための探索に従事する必要性である。
CB5Tは,メタ特性である安定性と可塑性を,これら二つのニーズを満たすために設計されたメカニズムの多様性を反映する,パーソナリティの最も広範な次元としている。サイバネティックシステムは,安定した機能を維持できるだけでなく,変化し予測不可能な環境に適応するために十分な可塑性も備えていなければならない。安定性と可塑性は概念的に対立しているように見えるが,実際には相互に補完的であり,また動的な緊張関係にある。安定性の対極にあるのは可塑性ではなく不安定性であり,可塑性の対極にあるのは安定性ではなく硬直性である。第3.1.1節で述べたように,質の高い測定データに基づけば,安定性と可塑性はほぼ無相関の特性である。
安定性とは
安定性は,勤勉性,協調性,および低い神経症傾向の共有分散を表す。低い神経質傾向の位極は情動的安定性(emotional stability)とされてきたが,安定性における協調性と勤勉性の役割も重要である。勤勉性は動機づけの安定性,すなわち長期的または抽象的な目標に向けた進捗を維持することとして,協調性は社会的安定性,すなわち社会的相互作用の調和を維持することとして説明できる。また,低い神経症傾向は安定性を示す最も強力な指標であることが示唆されている(文献; 文献)。これは,安定性というメタ特性が,サイバネティックシステムが感情的な衝動によって混乱するのを防ぐ制御メカニズムの多様性を反映しているという我々の仮説と一致する。協調性と勤勉性は,社会的または動機的に混乱を招く衝動の抑制を必要とするため,情動的安定性を調節するのと全く同じ抑制メカニズムで促進される。
神経症傾向と安定性の両方に根底にある機能は,心理的エントロピーが脅威であるという事実に対処するために進化したものである。より広範な目標(生存のような極めて広範な目標を含む)を維持するためには,現在の目標を一旦中断することが必要な場合があり,この防衛的な中断こそが神経症傾向に関連する機能である。別の場合には,たとえ脅威にさらされる可能性があっても現在の目標や戦略を維持する必要があり,安定性はこの能力の個人差を反映している。ただし,高い安定性は,防衛的な衝動による目標の混乱を防ぐだけでなく,探索的または報酬関連の衝動による目標の混乱も防ぐ。そのため,安定性は自発性を低下させる。
可塑性とは
可塑性は,外向性と開放性/知性の共有分散を表す。開放性/知性は認知的探索への傾向を反映している。外向性は,特定の目標に関連する潜在的に報酬をもたらす可能性を追求するために運動出力を用いる,行動的探索への傾向を反映している。探索は目標の追求を妨げる可能性があるが,既存の目標を追求するためのより効果的な戦略を生み出すためにも活用できる。これらの可能性のうちどちらが優勢になるかは,安定性と勤勉性の関数である可能性が高い。CB5Tで可塑性は探索(新しい目標,解釈,および戦略の創出)への一般的傾向と定義される。したがって,あらゆる探索には学習が伴う。
ただし,すべての学習が探索というわけではない。不確実性に対する防衛的反応(神経症傾向,特にwithdrawalに関連するもの)においては,誤りと認識された結果をもたらした解釈,戦略,または目標の優先順位を下げるか単に放棄される。これは収縮的学習であり,個人は「何をすべきでないか」あるいは「何を信じるべきでないか」を学ぶのに対し,探索は拡張的学習を伴い,個人は新たな目標,解釈,および戦略を創造する。