精神病理の次元モデルの一つに精神病理の階層的分類体系(HiTOP)がある。HiTOPでは精神病理の特徴を次元的かつ階層的にとらえる。これにより精神疾患のカテゴリカル分類に起因する,(a)診断間で併存症の割合が高い,(b)同一診断内の異質性が高い,(c)「他の特定される」や「特定不能の」診断の割合が高い,といった問題点を改善できると期待されている。
HiTOPの基本的前提に関する論文。潜在変数や次元性の位置づけおよび規範的価値について,個人的にクリアになった部分をまとめておく。
HiTOPモデルを表現するときの前提
HiTOPモデルは,因果モデルや厳密な意味での統計モデルではなく,発見的・視覚的なモデルである。これは統計的エビデンスに基づいているが,特定の数学的モデルを描写することを意図したものではない。したがって,潜在変数モデルからの多くのエビデンスを統合しているにもかかわらず,これは通常の意味での潜在変数モデルではない。
HiTOPの構成概念は潜在変数として操作化することは可能だが,HiTOPモデルは説明のための枠組み(記述的構造モデル)であり,適合された統計モデルではない。つまり,構成概念間の共分散関係について正確な数学的値や演算を特定することなく,精神病理学における共変のパターンを階層的に表すものである。
HiTOPモデルは臨床症状と特性によって構成される。両者の違いは主に時間的持続性の違いによるものである。特性は長期にわたって現れる一般的な傾向であるのに対し,症状は特定の期間に現れるものである。
潜在変数とHiTOP
潜在変数とは
潜在変数という用語は,直接測定されることなく研究対象となるあらゆる概念を指すためにしばしば用いられる。HiTOPモデルの開発で用いられるような統計的モデリングの文脈においては,その意味はより具体的かつ限定的なものである。潜在変数は,数学的にはその指標の共有分散として定義される。したがって,潜在変数は一連の観測(測定)変数の分散のうち,因果関係に依存しない部分を表すものに過ぎない。たしかに潜在変数アプローチを開発した一部の統計学者は,測定変数に影響する基礎となる原因を明らかにすることに関心があった。しかし,HiTOPモデルは潜在変数の性質について可能な限り知りえないものとしており,潜在変数が単一の隠れた原因や因果的な本質を表すとは仮定していない。
因子からその指標へと向かうパスを持つ反映的潜在変数モデルは,しばしば因果モデルであるかのように記述されるが,必ずしもそのように解釈される必要はなく,HiTOPの論文でもそのようには解釈されていない。指標が潜在変数を反映しているのは,その分散の一部が潜在変数に含まれている,あるいは潜在変数によって表されているという意味に限定される(文献, 文献)。したがって,統計モデルと因果モデルを混同しないことが重要である。
潜在変数は,最も広義には,データ内の共変パターンを整理する原理と見なすことができる。HiTOPにおけるその用いられ方においては,より具体的には「気質」と見なすことができる。しかし,気質は必ずしも個人の内部にある観測不可能な実体として捉える必要はない。むしろ,気質とは単に何らかの方法で行動したり機能したりする傾向に過ぎず,その素因の因果的な源について何ら示唆することなく特定の個人について測定することができる。
潜在変数と因果的解釈
潜在変数モデルを因果的な観点から解釈する場合,限定的な意味において,これらの傾向や素因をモデル内の指標の原因と見なすことができる。これは単なる同語反復ではない。なぜなら,ある人の一般的な傾向(たとえば内在化問題の傾向)を知ることで,たとえその人にその特定の問題が全く観察されなかったとしても,その人が現在または将来同じ広範な分類(たとえば性機能障害)に属する問題を抱える可能性が他の人よりも高いという結論を導き出すことができるためである(文献)。これは非常に弱い形態の因果推論として位置づけられる。なぜなら,これは単に,ある状態のクラスに対する一般的な傾向が,そのクラス内のいかなる状態にある可能性を高めると述べるに過ぎないためである。HiTOPは現時点で強い因果的解釈を支持していない。つまり,HiTOPは指標の共変の根底にある原因については主張しない記述システムにとどまっているが,正確な相関構造を特定できれば因果構造の特定も容易になる。
十分な経験的裏付けを持つ理論によって提唱される観測不可能な実体は,実際に存在し,現実世界の何かに対応していると言えるか(ここで,観察不可能な実体があるかどうかの実在論上の議論と,一貫する行動パターンに潜在的な原因があるかどうかの因果論上の議論を混同してはいけない)。HiTOPのように共変パターンに重点を置くことは,構造的実在論に合致すると言えるかもしれない。構造的実在論とは,成功した科学的理論が現実について捉えているのは観測不可能な実体ではなく,数学的構造や関係的性質であるとする見解である。