毎日熱心に見ていた『虎に翼』が終わってしまった。思えば、第1週の第1話で日本国憲法14条の条文を読み上げながら、市井の人たちが行きかう橋の下で戦争の名残を抱えながら生活する人たちを映したカットを見た瞬間から「このドラマは信頼に値する朝ドラだ」と直感でビビッと来た。何度も同じことを言っているけれど、朝ドラという視聴枠でドラマを見る人たちが長年いるようなジャンルの、第一週第一話はいわば「名刺」のようなもので、私はその名刺を受け取った瞬間から、作り手の覚悟のようなものを感じていたのかもしれない。
私が最も好きだったエピソードはやっぱり明律大学女子部編。地獄の道を開けてから出会った仲間たちの個性豊かさや、大学生ならではの「まだ何者にもなっていない/なろうとする」もがきのようなもの、葛藤を感じられて友情は一番美しい愛だ説を推している自分にものすごく刺さった。あと10話くらいやってほしかったな……。明律大学編の好きなシーンがあまりにも多すぎて選べない。逆に、最もよくわからなかったというか自分の中で消化できなかったのは星航一との恋愛~星家関係の話。そもそも自分の好みじゃないというのを前提にだが、たぶん理解が追い付いていない&多様的な家族の形を描くにあたってあまりにもあっさりしているなと感じてしまったからかもしれない。みんな(育ちが良いことは前提に)物分かりが良くて、もっと暴れろよ!ぶつかれよ!と思ってしまったのもある。私は対話ではなく、そういう衝動から新たに生まれる関係性の方が好みなので……。なんというかこのあたりはいろんな方が言っている通り「台詞が先滑りしているように感じる」ことが多かった気がする。あと、フォロワーさんともちょっと話をしていたのだけれどこのドラマにおけるヘテロ的恋愛ってあまり刺さらなかったな……(吉田さんの過去作全部見てるわけじゃないのですが、君花のメインテーマであるラブもあまり刺さらなかったのであまりそこを書くのがお好きじゃないのかなとも思ったり)
朝ドラなのでもちろん主人公の寅子が好き、ということはもちろんなんだけど、それ以上に好きだなと思ったのはやっぱり我らが花江ちゃんと山田よね。花江ちゃんは当時の一般的な女性の生き方そのもので、彼女の人生に大きな転機をもたらしたのは戦争で、夫と死別せざるを得なかったということ。この前読了した『翔ぶ女』で『イーストウィックの魔女たち』という映画のセリフを引用していて、『死別・別居・別離は人生の三代別だ。これを経て女は花開く』と記載されていたんだけど、まさに花江ちゃんだなと思った。結婚という翼を手に入れたはずなのに、戦争によっていろんなものと別れて手を離さざるを得なかった花江ちゃんの人生が、最終話で大きく花開いて熟されたんだなと思って泣けました。いわゆる典型的なベータヒロインだと思うんだけど、運命に翻弄されて争わずとも幸せを手にした花江ちゃんの努力が素晴らしかったな。余談だけどクランクアップの動画でお兄ちゃんが駆け付けてるのを見てボロ泣きした……。
そして山田よねは誰もが好きにならざるを得ない人物造形だったと思う。女として売られることになり「女やめる」と言って規格外に飛び出すことを決めたのに、結局新しい翼を得るために女の価値を売らざるを得なかった人。どこにでもいる市井の人間で終わっていたかもしれない彼女が、信念を曲げずにいたからこそ寅子や女子部の魔女たちも自分らしさを手に入れて飛ぶことができて、ありのままで受け入れられる相棒を手に入れて、最終的には尊属殺人の違憲をもぎ取るというストーリーラインは胸が熱くなった。
この二人の接点はドラマ内ではほぼなく、寅子を起点として対となるようなところが多かったんじゃないかと思う。(唯一絡みがあるとしたら毒饅頭事件のところかな?) でもこの二人はよく似ていて、花江ちゃんや梅子さんがケア労働の役割を担っていることはTwitterでもよく話題になっていたけれど、実はよねも同じくケアの人なのだとわたしは思う。傷ついた経験があるからこそ、人の傷に聡く敏感な彼女は、灯台の跡地である弁護士事務所に来る依頼人たち(美位子や原爆裁判の吉田さん)の言葉に耳を傾け、真摯に向き合っている。食事や生活のケアではなく、人に対する精神的なケアをし続けていたのは彼女だったな、と思う。だからこそ轟は地獄の淵から救われたし、涼子様は心によねさんを住まわせていたのだなとも思う。ぶっきらぼうで口が悪くて照れ屋な彼女がとても好き。(そういえばここまで書いていて思い出したんだけど、彼女による肉体的なケアは名律大学時代の寅子の月経痛に対するツボレクチャーだったなと。寅子、愛されてるな……。)
いつも朝ドラの最終週はさみしくなるのだけれど、虎に翼においては主題歌のさよーならまたいつか、が呼応して、さみしさというより身の引き締まる思いの方が強かった。それは朝ドラという枠の中でこれを描きたい!という作り手の本気を受け取ったからだし、批判を覚悟でここまで挑戦してきた作品に敬意を払いたいなと強く思ったこともあるかもしれない。100年先にいる私たちがまた次のバトンを繋げないといけない。特別な翼がなくても、飛んで行く力を身につけて、時々面倒なことをいう虎にならなければいけないと思う。良い世の中にしたい、というかします。
※今更ながらタグをつけたのでしずインで書いたとらつば関係はそちらをご参照ください。優三さんのことといいケアの話ばっかしてるな。