去年の年の瀬、普段見慣れないLINEアイコンから通知があった。
学生時代に過ごした調布にある、15年、いやもしかするともっと長い間お世話になったバーが閉店するという、マスターからの連絡だった。
とても寒い日だったことも相まって、ほんとうに寂しい思いに駆られた。
「近くに良いバーがあるから今度いこうよ」
出会いは同居していた、学友あるいは悪友からの紹介だった。
最初こそ彼と一緒に行ったものの、当時は金がない学生である。バイトの給料日やギャンブルで稼いだはした金を持って、基本的にひとりで月に一度か二度、足繁く通う事となる。
アンティークランタンとその光、一枚板のカウンターテーブル、グラグラする背の高いチェア。
東京のバーである。かっこうをつける。メニューはあるにはあるが、見た覚えはない。
タバコに火をつけて、まずはビール。ワイルド・ターキーからあとは気分とおすすめに。たまに季節に合わせて、暑い夏なんかにはモヒートを。ときには絶品のカレーで腹も満たす。
ひとりで行くので話し相手はいない、が、店には珍しい客だったのか、マスターなんかとは仲良しになっていった。
居合わせた客とは話さない。小説に出てくるような、謎めいた魅力的な女性との出会いはない。
社会人になっても同じ沿線に住み続け、1-2ヶ月に一度は通う日々が続いた。周年を一緒に祝い、時にはパートナーも連れていった。友人とも通うようになった。
そこから少し疎遠になる。まず引っ越して沿線が変わったこと、そしてCOVID-19だ。もともと調布の再開発によって、お店がどうなるかという話はずっとあったのだが、またどこかで店を開くことを前提に、一度閉店することになった。
そこから時間が経ち、新しく再開させたのも1年ちょっとか。オープニングで出向いたあとに、今回の連絡である。
いま、最後に伺うために電車に乗っている。
自分にとってその「バー」は特別な存在だったんだなと思う。
誰からも干渉されずに過ごせる場、伺えば変わらぬ景色と美味しいお酒で出迎えてもらえる。どうでもいい話をどうでもよく聞いてもらえる。
そんな場所がなくなる。
感謝とお疲れ様を伝えて、今日もうまい酒を飲んで帰ろう。