※以下の文章にはトランスヘイトの言説を含みます。フラッシュバックの恐れがある方は閲覧を避けることを推奨いたします。
いただいたマシュマロ:
はじめまして。タイムラインでお見かけして、意見を伺ってみたいと思ったので匿名で送らせていただきます。直接お話しする勇気がなくてすみません。 自分は肉体、性自認共に女性で、バイです。不勉強なのでこの辺り言い方間違っていたら本当にごめんなさい。 少し前にトランス女性及びトランス男性が肉体と異なる公衆浴場や公衆トイレを使用することに対する議論が大きく話題になっていたと思います。これについて、hikaさんはどう考えているのかお聞きしたいです。 自分は先述した通り肉体精神共に女性なので、普段から女性トイレや女子更衣室や女風呂を利用しています。以前大学の帰りが遅くなり夜間に公共施設に併設されたトイレを利用しようとしたところ、明らかに肉体男性の女装の方がおり、驚いて利用せずに急いで帰った経験があります。帰宅後に振り返って、「私はさっき見た目で明らかに男性だと判断してしまったけれど、もしかしたら違ったかもしれない、勝手に決めつけて逃げるという本人からしたら傷つく失礼なことをしてしまった」「でも身長も頭一つ分以上大きくて体つき含めて男性にしか見えなかった」「女性のみの空間と思っていた場所に肉体男性が堂々と立っているとどうしても恐怖を感じる」「その人が自分に害を与える存在かはわからない、実際に害された訳でもないのに勝手に判断して恐怖を感じるのは失礼ではないか」「だとしても怖い」という、罪悪感と反省と恐怖でいっぱいになりました。 その後も夜間に何度か同じように女性トイレで立っている所と遭遇したのですが、その度にビクッとしてしまいました。 差別に当たるかもしれないしこちらが見た目で性別を判断してしまっているのは私が潜在意識から改めなければならない事とも思うけれど、どうしても女性専用とされている公共の空間に男性に”見える”方がいらっしゃると恐怖を感じてしまいます。 hikaさんはトランスの方が肉体性別と異なる公共設備を利用する事について、どう(なったら理想的)と思われますか…?
以下私のお返事:
まず、このマシュマロをくださった方が、ヘイトや差別を目的とせずに質問してくださっているのでこちらも時間を使ってお返事をする気になったこと、そして、私はジェンダー・セクシュアリティを学ぶいち学生であり、疑問を持つすべての人に真摯に向き合って解答する義務は負っていないことを明記しておきます。
そのうえで、こうしたトランスジェンダーの方への"恐怖"について私が学んできたことから全般的に解答しますが、まず、特に過去に性被害を受けた方や、男性に対して強い恐怖感を持っている人にとって、"見た目が男性に見える"存在がプライベートな空間であるトイレにいたら怖いと感じるのは当たり前だと思います。ただその恐怖を瞬時にトランスジェンダーの人々に結びつけることに、大きな問題があるんです。
1つには、トランスジェンダーの人々の中には、"パス度"という概念が存在しており、これは、第三者から見たときに自分の外見がどの程度自認する性別と一致して見えるかを示す度数のことです。パス度が低いと「男か女かどっちなんだ」と聞かれたり、「(女性なのに)見た目が女に見えないから普通じゃない」とされてしまう現状があります。そういう状況で、パス度に自らの精神的・肉体的安全を左右されるトランスジェンダーの人々が、わざわざ男女二元論的なトイレや温泉に行って加害行為をすると思いますか。そもそも自分が自認している性別と身体的特徴における性別が一致せずに苦しんでいる人々が、わざわざ、他者の目によって自分の性別を判断され、ヘイト行為を受ける可能性のある場所に行くでしょうか。トランスジェンダーに関する基礎的な情報を掲載しているtrans101.jpから、トイレに関する質問の答えを引用しておきます。
"Q18 トランスジェンダーはどのトイレを使うのでしょうか
個人によって異なります。多くの当事者は性別移行の状況にあわせて、使用するトイレを徐々に移行します。性別移行をはじめてまもなく外見が変化していない当事者もいれば、移行先の性別ですっかり馴染んでトランスジェンダーであることを特に明かさず暮らしている当事者もいます。トランスジェンダーはこのトイレをつかうというひとつの答えがあるわけではありません。"
そして基本的なことですが、トランスジェンダーであってもシスジェンダーであっても、性加害を行う人はいます。ですがそれは、その犯罪者の問題であり、属性の問題ではありません。公衆浴場に関しても同じで、トランスジェンダーやLGBTQ+の人々が求めているのは「男性器が付いている自称女も女湯に入れるようにしろ」ということではありません。トランスの人々はトランジションの有無にかかわらず一律で性自認に基づいた浴場に入れるようにしろと主張しているんだ!というデマがいまだに根強いですが、そんなことを主張している当事者はいません。そんなことが実現したって誰も得をしないからです。ここでもtrans101.jpの解答を引用します。
"Q22 公衆浴場はトランスジェンダーをどう扱っていますか
2023年6月には厚労省は「公衆浴場や旅館業の施設の共同浴室における男女の取扱いについて」を発表し、公衆浴場法に設けられた「おおむね7歳以上の男女を混浴させないこと」を基準に、公衆浴場や旅館業の施設の共同浴室については身体的な特徴をもって判断するものという技術的助言を行っています。つまり陰茎がある状態の人が、仮に性自認が女性であったとしても女湯に入らないようにとの内容です。公衆浴場や共同浴室は管理者の意思が最優先される場であり、また施設の性質上、合理性のある基準ではないかと思われます。個別のケースに応じて、個室スペースを案内するなどの工夫をしている浴場もあります。
トランスジェンダーと公衆浴場の話題は日本のSNSでこの数年話題となっていますが、トランス女性の団体が「自分たちを性別適合手術なしで女湯にいれてくれ」と訴えているのではなく、むしろ当事者への嫌がらせ(トランスジェンダーは無理難題を押し付けるクレーマーだという印象操作)としてこの話題が持ち出されていることに注意が必要です。"
それと忘れてはいけないのは、トランスヘイターたちがこうした恐怖を扇動するようになるずっとずっと昔から、トランスジェンダーの人々はこの世界に存在してきました。ゲイやレズビアンやバイセクシュアルの人々と同じようにです。つまり、もうすでに、気づかないうちにあなたもトランスジェンダーの人々と一緒に生活しているんです。あなたがこれまでトイレや温泉ですれ違った人はトランジションを済ませ、パス度の高くなったトランスジェンダーだったかもしれないし、男女二元論の場所でなくても、道ですれ違ったり、すでに様々な場所で共生しています。トランスジェンダーの人たちがとりわけ性犯罪を行ってきた記録なんてありません。むしろトランスジェンダーであることを理由に性加害を受ける当事者は多いです。
こうしたことを踏まえたうえで、私はマシュマロをくださった方が見かけたという男性的見た目の方が、トランスジェンダーかどうかなんてわからないと思います。異性装をしているからといってトランスジェンダーだとは限らないし、そもそもシスジェンダー女性である可能性だってあります。男性らしい見た目はこう、女性らしい見た目はこう、という決めつけによって、シスジェンダー女性をトランス女性だと誤って判断してヘイト行為を行うケースはすでに起きています。そしてもちろん、その方がトランスジェンダーであった可能性も十分あります。でも、何か良からぬことを企んでその場に侵入していたトランスジェンダーなのか、普通にトイレを使用するためにそこにいたトランスジェンダーなのかはわかりません。仮に良からぬことを企んでいたのだとしても、それはトランスジェンダーだから問題なのではありません。男性的見た目の人が女性のスペースに存在していたことで感じた恐怖は理解できます、きっと私も怖いと感じると思います。でもそれをイコールで、"トランスジェンダーの人だ""トランスジェンダーの権利を認めるとこういう怖いことが起きるんだ"と結びつけることは、事実に基づかない、恐怖扇動の結果によるものであることを、忘れないようにしないといけないと思います。「心は女なんだから女性スペースに入れろ!!」と主張する人が果たして本当にトランス女性なのか、そうした主張を行って犯罪を行う人が本当にトランスジェンダーなのか、よく考える必要があります。
本当はもっとリソースを紹介しながらお返事出来たらよかったんですけど、いろいろやることをこなしながら書いた文なので、おおざっぱなところもあると思います。でも、ここに書いたことは、私が、トランスジェンダーでもシスジェンダーでも、LGBTQでもそうでなくでも、どんな人でも安全に権利を保障されて暮らすためにはどうすればいいのか、一生懸命学んできた中で得た知識をもとにしています。嘘は書いていません。とはいえ、私はトランスジェンダーを専門に勉強しているわけでも、当事者でもないので、まだまだ狭い視野の中での解答だと思います。なのでどうか、もっと詳しく知りたい場合は、新書『トランスジェンダー入門』を読むとか、Netflixで公開されている『ハリウッドとトランスジェンダー』を観てみるとか、引用したtrans101.jpのサイトを読んでみるとか、トランス男性として情報発信されている奏太さんのYouTubeチャンネル『かなたいむ。』を観てみるとか、正しい場所からぜひ知識を得てみてください。