凹凸のある青竹踏みの上で足踏みをしながら、ガスコンロの前にいる。みそ汁に入れた白菜が透き通るのを待っている。その右側ではフライパンがパチパチ音を立てている。塩サバが焼かれているのだ。
『深夜食堂』という漫画がある。ドラマ化もされた。私がどちらを先に見たのかは忘れてしまったが、魚の焼き方を教えられたのはドラマの方だった。
毎回の最後に料理コーナーがあったのだ。いや、毎回でなかったかもしれない。私が覚えているのはポテトサラダの作り方と、魚の焼き方だけなので。
とにかくそのコーナーで言っていたのが「海は身から、川は皮から」というものだった。野菜を茹でるときの「根のものは水から、葉物はお湯から」と似ていたこと、語呂の良さから頭に残った。
それからというもの、私は魚を焼くときに心の中で「海は身から……」と唱えるようになる。なぜそうした方がいいのかまでは考えていないし覚えていない。
ところが、である。この度焼いている塩サバは楽天市場で購入した、骨取り冷凍塩サバなるもので、丁寧に焼き方のパンフレットが同梱されていたのだ。もうお気づきかと思うが、そこには「皮から焼いてください」と書いてあった。私の十年くらいの習慣を覆すパンフレットだが、このサバを売っている人は皮から焼いてほしいのだろう、と思いその通りにしている。とはいえ特に違いはわからない。好きなものだからだろうか。どちら側から焼いてもおいしいと感じる。
そうこうしているうちに、白菜は透明になり、味噌を溶かす時間がやってきた。青竹踏みの上から降りる。サバはまだパチパチと身を焼かれている。みそ汁を完成させてから冷凍ご飯を電子レンジに入れた。洗濯機が脱水している音が聞こえる。残り時間を覗き見ると、三分だった。しまった、ご飯ができると同時に洗濯もできてしまう。時間配分が上手いのか下手なのか、結構こういうことになる。
火を消してサバを皿に乗せ、みそ汁をついだところで終了の音が鳴った。洗濯槽から衣類をかき集めて持ち上げると、今度は電子レンジから呼び出される。通り過ぎがてら扉を少しだけ開けておいた。何度も呼ばれたくはない。一人分だけの洗濯物をささっと干してしまって、よし、いただきます。