第18週「七人の子は生すとも女に心許すな?」
七人の子をもうけるほど長年連れ添った妻にも、気を許して大事な秘密を打ち明けてはいけない。 女には気を許すなということ。
七人もの子を産んでやったにもかかわらずこの言われよう…出産は命がけなのに???この夫のことは絶対に信用しないほうがいいな!!!
さて今週は重かったですねぇ…
まずはスマートボール場火災において放火の容疑者としてオーナーの朝鮮人・金顕洙が逮捕され公判にかけられる事件が描かれる。
逮捕する警官も、同じ裁判を担当する入倉判事補も、ハイハイ朝鮮人…みたいな言動を隠しもしない。正直、現代だってそうなんだからこの当時はもっと差別感情の発露が酷かっただろうなと思う。
だけどそんな差別発言に対して寅子がすぐに「差別はいけませんよ」「生まれた国は関係ないのでは?」とすぐ言い返せる、その強さは見ていてホッとするものがあった。内心で「えっ」と思っても目の前の人間をすぐに注意するってなかなか難しい。発言力の増した寅子がまわりをスンっとさせてしまうことが裁判官編終盤で描かれてきたけど、ここへ来て寅子のこれまで培ってきた強さが差別から弱者を守る展開にグッとくる。かつて寅子は法律は盾のようなもの、と言ったことがあるけれど、法律ではなく寅子自身の強さが誰かを守る盾となったのだ。
だけどそんな寅子の言葉に対しても、いやいやそんな差別なんて大袈裟な…とか、現実問題…とか、帰ってくる反応も現代と同じ。そんな場で、朝鮮人当事者ではないものの、朝鮮人との恋愛を諦めさせられた過去を持つ小野さんの横顔が見ていて苦しかった。
裁判官でありながら無責任な偏見を口にする入倉、それを諌めようとする寅子。そんなギスギスした合議の場で、年長者である航一が話したのは関東大震災時の朝鮮人虐殺事件のことだった。
偏見が人を殺す。そんなことは現代でもたくさん起きているのだけど、そのなかでもたった数日でたくさんの犠牲者を生み出したこの朝鮮人虐殺事件を、しかも意図的になきものとしよう今、改めてきちんとスポットを当てる意味は大きい。(追悼文をぜったいに送らない小池都知事、群馬県の慰霊碑撤去も本当にひどい)
このドラマが朝鮮人差別問題を描くことはわかっていても、関東大震災は時代が違うから虐殺事件には触れられないだろうと思ってたんだけど、当時の検証が始まる時代だからこそ正面から描くことができるのだと、想定外だったので驚いたし、朝鮮人差別問題を描く上でこの事件を避けるわけにはいかないというドラマ制作陣の気合いも感じた。
また当時の資料としてデマを煽った新聞記事を写したのもよかった。現代ではインフルエンサーが犬笛吹きまくってて最悪だけど、新聞やテレビ局は最低限の歯止めとなるべく、この事件のことは何度でも反省してファクトチェックをしてほしいと思う。
そんななか、勾留中に金顕洙から弟に向けて出された手紙が検察から証拠物として提出される。無罪を主張しているのに、まるで犯行を自白するかのような手紙の内容に寅子は首を捻る。
そこで寅子が頼ったのはヒャンちゃん!すぐ来てくれてうれしい〜!😭 でも女子部仲間(玉ちゃんと花江も)ってこうなんだよな…と改めて思う。あなたを助けたいと言われるとスッと引くのに、仲間に助けてと頼まれると奮い立つ。そんな女子部仲間が大好きだ〜と改めて思いました😭 早くみんなで再会してくれ〜😭
たまたま訪れてきた小野さんと汐見夫婦とのシーンも良かった。小野さんは結婚どころか交際も諦めさせられ、汐見さんとヒャンちゃんも実家と縁を切った。朝鮮人と日本人の結婚がそれだけ難しかった時代だからこそ、同じ境遇の人と出会うこともめずらしかったと思う。だからこそ、汐見夫婦に気持ちを話せて、聞いてもらえて、小野さんの気持ちが少しでも安らいだならいいなと思う。
結局裁判は、手紙を含む証拠物の立証が認められず、金顕洙に無罪が言い渡される。金顕洙は土下座をして涙を流しながら感謝の意を示したが、弟・広洙は裁判官たちをきつく睨みあげていた。そもそも逮捕が偏見による決めつけだった。それにより兄は長期間勾留された。ひどい取り調べもあっただろう。これでよしとしてはいけない、という脚本の強い意思を感じるシーンだった。
また、この金兄弟をともに朝鮮学校出身の在日の役者さんをキャスティングしたというのが本当に素晴らしいなと思った。戦前の日本や統治下の朝鮮を舞台とした韓国映画やドラマは数多くあれど、日本人役に日本の役者さんを起用してる作品はそんなに多くない。被植民地視点ではどうしても悪役として描かれることが多いし、受けたら受けたで日本国内から反日だなんだと批判が来るのだから、まあ日本の役者さんとしてもやりづらいだろうなとは思う。その一方で、日本ではその時代を描いても在日朝鮮人が登場する作品自体がまず少ない。だから『虎に翼』がこの時代の在日朝鮮人を複数人(ひとりはメインキャスト)、差別問題も含めて描いたことと、さらにその朝鮮人役に当事者をキャスティングしたことはほんとうに画期的なことだと思う。
関東大震災の朝鮮人虐殺のこともそうだけど、日本のテレビドラマじゃこのあたりが限界だよな〜となんとなく思わされてきた見えない壁を『虎に翼』はひょいひょいと越えていく。長らく内向きだった邦画界や日本ドラマ界にも波及していけば良いなと思う。
そして今週を締め括ったライトハウスの一幕。
先週の感想で『夜明けのすべて』で描かれるグリーフケアについて触れたけど、まさに今週のこの一幕はグリーフケアの場のようだった。
まず入倉のなかにある朝鮮人への複雑な怒りが吐露される。
昔のことなんて知りませんよ! 町で会う朝鮮のやつらもそうだ。俺は誰も虐げたことなんてない。普通でいるのに敵扱いされてにらまれて、そんな態度されちゃ、そりゃ彼らへの印象だって悪くなる。頭じゃ駄目だってわかってても!
この発言は差別を指摘されたマジョリティの言葉としてめっちゃあるあるだと思う。実際にSNSでもよく見る。歴史や構造を無視し、個人と個人だけを見て、(マジョリティである)自分のほうが被害者であるという感情が先に立ってしまう。
だけど寅子はそんな入倉を断罪することなく、「踏みとどまれてる」と寄り添う。こうやって本音を話してくれるだけ、入倉はそう遠いところにいるわけではない。なにより彼は「頭じゃ駄目だってわかってる」人なのだ。
その一方、人が変わるのは本当に難しい。差別は一切肯定しませんが、私の立場からは、今から変わろうとしている人や過去の出来事に目を背けてしまう人にも、なるべく攻撃的にならず向かいあっていきたい。そう、つとめていきたいです。どんな物事も教えられてこなかったことと向き合っていくことは大変なことだと思うのです。
差別に対して怒ることは大事だけど、同じくらい、差別してしまう人、個人に対して攻撃的にならないことも大事なんだろうと思う。攻撃してしまえば溝は深くなる。それは本来の目的とぜったいに違うはず。新潟編になって再三セリフにも出てくる「溝を埋めること」はこのドラマの大きなテーマなんだなと思う。
私ここのところずっともどかしかったんです。自分の無力さが…。14条がうたってる平等とは何なのか? 私にできることは何なのか考えていて。分かり合えないと思っても、一度じゃ伝わらなくても、諦らめずに向き合う…それくらいなのかなって。でも一歩ずつでも前には進まないと。
自らが信棒する14条に現実が届かないことへのもどかしさを語る寅子の脳裏には、「障害者」である玉が働いていることで店が嫌がらせを受けている事実もあっただろう。そんな寅子の言葉を涼子も玉もじっと聞いている。
ま、ご立派ではあっろも。そらろも戦争が終わってまだ10年もたってねぇ。平等やら何やらに気を遣えんのは、学があるか、余裕がある人間だけら。憲法が変わったんだすけ変われーなんて言われても、全部ねえなったみてえでおっかねなってしもう。そんげ人間もいるでしょうて。
寅子の「正しさ」を笑うものはこれまでもいた。だけど太郎弁護士のこの言葉は違う。太郎弁護士含め、この場にいるのは寅子の「正しさ」が理解できる、「学があるか、余裕がある人間」だからだ。太郎は弁護士として、「正しさ」から遠いところにいる被差別者や貧しい人たちを知っているだろうし、時代が変わったからといって気持ちを切り替えられない気持ちは、空襲で一人娘と孫娘を亡くした痛みを抱えている自分自身、よくわかっていた。
そんな太郎の言葉を聞いてまた、謝罪の言葉を口にする航一。そしてその当時は誰も知らなかった「総力戦研究所」に所属していた過去を語りはじめた。
研究所の目的は総力戦の本質を明らかにし、その運営の中枢人物たるに必要な能力を習得させること。そして大戦に向けて、軍を、国民を、指揮監督する人材を育成すること。僕たち研究生は模擬内閣を発足させ机上演習を行いました。日米戦争を想定した総力戦の机上演習です。机上演習の結果は、――日本が敗戦。
その結果を政府に進言するも、「これは机上演習であって実際の戦争とはまったく異なる」と突っぱねられてしまったという。(じゃあまじでなんのために研究所作ったんだよ怒)
もちろん僕一人がなにかできたかなんてたかが知れてる。でも、佐田さんや杉田弁護士のように大事な人を失った人間が大勢いる。妻も、照子も、満足な治療を受けられず死んでいった。その責任がみじんもないなんて、自分は従ったまでなんて、どうしても僕は言えない。その罪を僕は誰からも裁かれることなく、生きている。僕はそんな自分という人間を何も信じていない。そんな人間が何かを変えられるとは思わない。だから謝るしかできないんです。子どもを育てきるために裁判官の勤めを果たします。僕自身は信じられなくても、法律は信じられるから。でもそれ以外はすべて距離を…置いていたのに…
このドラマは最初からずっと差別を描いてきた。「人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において」差別されたり分断されたりすること、それに対して怒りの声を上げ、分断の溝を埋めていくというこのドラマのテーマそのものを体現したのが寅子だった。そんな寅子と出会ったことで、「すべてに距離を置いていた」航一の心がゆっくりと溶け、言葉が溢れていく。
この日の天気が雪だったのもまさに航一の心の「雪解け」と重なって見えてよかった。朝ドラはスケジュールにそんなに余裕がないせいかあまり雨や雪のシーンはないのだけど、航一と寅子の心が通い合うきっかけとなっただろうこの日、このシーンをとても大事に、うつくしく撮ろうとしているんだなという制作陣の気概も伝わってくる。
少し分けてくれませんか? 航一さんが抱えているもの。
寄り添っていっしょにもがきたい。少しでも楽になるなら。
店の外に出て泣き崩れた航一の背を、そっと寅子の手が擦る。その手の優しさは、言葉とはまた違う形で航一の心に届くのではないか。そう信じられる、とてもやさしくて心温まるシーンだった。
最後のグリーフケアの一幕は話はあちこちに行きつつも、それぞれの葛藤や悩みを吐き出せたという意味では女子部時代にみんなで弱音を吐きあったシーンを思い出した(ひさしぶりの直道兄ちゃんにも泣けた😭)。またその場にいた人みんなが星判事に、あなたのせいではない、と言ったように、考え方が違っても目の前で苦しんでる人にはケアできる。机上の空論ではない、人間が本来持っているケアの精神が見えたシーンでほんとうに良かったなと思う。
予告では寅子と航一の距離が近づく様子が見えてほほえましい一方、くすぶったままの美佐江問題が再燃するようで怖い。まったく飽きさせない朝ドラですね。来週も楽しみです!
第17週シナリオふりかえり
店の名前の由来…心によねさんを…😭
深田さんは晩婚でまだ幼い娘たちがいる
「佐田さんのように、呼吸をするように難なく友だちができる人ばかりじゃないんですよ」航一さんと寅子のこのあたりのやり取り見たかった😂
美佐江のことで思い悩む寅子にお茶を入れてあげる航一。航一は初めて会ったときも寅子のためにお茶を準備してくれてたな〜と思い出す。
関東大震災時の朝鮮人虐殺についてはこちらの本おすすめです↓
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