ばけばけとばけばけな本の話(その12)

hinata625141
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公開:2025/12/21

第12週「カイダン、ネガイマス。」

ばけばけ公式ガイドブックと小泉八雲特集の現代思想

いや予告!!!予告の衝撃で今週が全部吹っ飛びそうでした……来週が楽しみすぎて今からソワソワしてます。来週の週タイトル、「サンポ、シマショウカ?」なの良すぎませんか…?😭

とはいえ今週も重要な一週間でした。ヘブンと怪談の出会い。そしてその怪談をきっかけに、トキとヘブンの関係がついに変化し始めます。

金縛りが続くためお祓いをしてもらうべく訪ねた寺で住職から「水飴を買う女」という怪談を聞かせてもらったヘブンは、思わず涙を流してしまうほどに怪談に心掴まれてしまいます。

帰宅して部屋にこもったヘブンに襖の外からトキは思い切って声をかけます。「怪談、もっと聞きたいですか? 私知っちょります、ようけようけ、知っちょります」と。おどろいたヘブンは怪談を聞かせてもらおうとトキを部屋に入るよう勧めます。

このシーン、とても美しく、丁寧に描かれていましたよね。襖を挟んだ二人のシンメトリー、からの、トキが敷居をまたぐ足のアップ。トキは何度もこの部屋に入ってるからこれが初めてではないんだけど、それはあくまで女中として、でした。このとき初めて、女中と主人という一線を踏み越えた。それを強く印象付けるカットでした。ヘブンもまた無意識のうちに座布団を勧めることによって、トキを女中ではなく客のように扱っています。

それではとトキが張り切って母からもらった怪談の本を持ってくると、ヘブンはそれを拒みます。

「ホンミル、イケマセン。アナタノハナシ、アナタノカンガエ、アナタノコトバ、デナケレバイケマセン。シジミサンノ、ハナシ、カンガエ、コトバ、キキタイ。」

読み聞かせでなく「語り」が良いと。今よりも識字率が低く、口伝の多い時代ではあったでしょう。だけどそれだけでなく、ヘブンのそれまでの人生の中で物語は口伝が一番良いと信じるに至るなにかがあったのだろうと推察されます。

だけど実際、自分の言葉で物語を語るのって難しいですよね。まず全部ちゃんと覚えてないといけないし、頭の中で物語を咀嚼してないとできない。初手からそれを要求するヘブン。無茶振りかと思いきや、他でもないトキはそれに応えることができるんです。なぜなら怪談大好きっ子で、幼いころから母に怪談を語ってもらっていたから。……完全に運命の二人ですね。

最初にトキが選んだのは「鳥取の布団」でした。それは別れた銀次郎から教えてもらった怪談。部屋を暗くして蝋燭を準備して……さすがの怪談マスターっぷり! そしてここでも蝋燭を挟んだ二人のシンメトリーのショットが美しい。

夢中になって夜遅くまで何度も「鳥取の布団」を語って聞いてを繰り返していた二人はその興奮が翌朝にまで残っています。うまく言葉も通じないのにお互いの「好き」だけが重なった奇跡。「学校休みたいくらい。早く帰ってきます」「待っちょります」などと言い合ってる二人、もう新婚夫婦か!?!?!?

だけど「鳥取の布団」が夫から聞いた話であることを気にしてるふうのヘブンに、トキはその夜は「子捨ての話」の話をします。それを聞いたヘブンは思わず父親から捨てられた過去を口にします。「マダ、ユルセナイ」と。

「何べん捨てられても同じ親のもとに生まれたこの子の親を思う気持ちは強い。それを知ったこの親はこの子を大切に育てると思います。相手の気持ちを知ることで、ええことになったらええなぁって思います」と、トキは自分の考えをゆっくりと口にします。それを聞いたヘブンは「わたしは(父親と)同じことはしない。ええことします。シジミサンの考え、スバラシ。」と感じ入ったように応えました。

自分で考えた言葉に共感してもらえるってすごくうれしいですよね。もとより女の言葉なんて軽んじられる時代。学がないこともトキのコンプレックスだったでしょう。そんな自分の言葉を正面から聞いてくれる、「スバラシ」と言ってくれたヘブンの言葉にトキは驚いただろうなと思います。

その夜、ひとりになったヘブンはふっと振り返ってトキがいた場所をじっと見つめます。もうその場にはいないトキのことを思っていたのは明白です。こういう無言のシーンのあじわいが『ばけばけ』のいいところ!!!

大好きな怪談を通して互いのパーソナルな部分へ踏み込んでゆく二人。

しかし怪談こそがラストピースになってヘブンが松江から離れてしまうかもしれないと錦織に聞いたトキは、怪談を語る役目から逃げようとします。そんなトキにヘブンは「アナタノハナシ、アナタノカンガエ、アナタノコトバ、……スキデス。」とストレートにぶつけてきます。

それを聞いたトキの、いくらでも語り聴かせてあげたい、と、松江を離れてほしくない、の気持ちに引き裂かれるような表情がいじらしくて切なかったです😭

そして二人の気持ちが互いに向き始めたこのタイミングで銀次郎ーーー!!!そしてイライザも松江上陸!?!?どうなるの!?!?!?……いやまぁどうなるもこうなるもOPの二人にいずれなるんですが😂 たぶん放送は来週が年内最後なので、二人うまくいって年おさめか、それとも年を越すか。

どっちでも大歓迎!!楽しみです!!!


●ばけばけな本(12冊目)

『現代思想 総特集ラフカディオ・ハーン/小泉八雲』

かなり読み応えがあってまだ全部は読んでないんですが、今週のエピソードのつながるようなお話をいくつか引用したいと思います。ヘブンことハーンは怪談の中でも子どもの話や生まれ変わりの話に強く興味を持っていたそうです。

「ハーンと〈つながり〉の文学 現代に求められるアニミズム的思考」(小泉凡)より以下抜粋。

間引きによる子捨てについては、アイルランドの父チャールズに捨てられた自身の境涯とも響きあう内容に共感したことが理解できる。一方で、その子どもが同じ親の元に、あるいは別の家に生まれ変わる、転生、すなわち日本人がもつ循環的生命観に興味をもったことが推察される。 それは後のハーンの作品に、この転生をモチーフとする作品が少なからず存在するからだ。

こちらまさに今週トキが語った「子捨ての話」ですね。子どもを捨てる親に、自分の父を重ね合わせたのも今週のエピソードで描かれたとおりです。だけどこの「子捨ての話」がハーンの心を捉えたのは自分の生い立ちに関わることだけでなく、同じ魂が何度も同じ親のもとに生まれてくる「転生」の物語でもあったことでした。

アイルランドの詩人W・B・イェイツは「古い民族はみな魂の再生を信じており、ラフカディオ・ハーンが日本人の間にみたように、その証跡を体験を通して知っていたのであろう」と述べている。ハーンも「生まれ変わり」は日本の固有信仰と思ったわけでは決してないだろう。それは先祖の地である古代ギリシャやケルト世界の死生観であり、愛読したタイラーの著書にも複数の事例が紹介されていたからだ。しかし、日本のアニミズムに顕著に見出された循環的生命観に、〈つながりの感覚〉を覚え、共感したことは疑いないだろう。

またハーンは「輪廻転生の考え方は市の恐怖を軽減し、人生に美しい影響を与える」とも語っていたそうです。キリスト教は魂の生まれ変わりを認めてないので、やはり死生観においてもハーンはキリスト教に馴染まなかったんだなぁと思います。そして「来世は〜」と何気なく呟いてしまうわたしたちもまた、「輪廻転生」という思想がしっかりインストールされてるんだなぁと改めて思わされました。

次は平藤喜久子・三浦佑之による対談「ハーンの声に耳をすませる 見えないものや自分とは違うものとどう向き合うか」より。

平藤 おっしゃる通りで、ハーンの文章を読むと、彼がすごく惹かれているのは旧潜戸の子供の話ですよね。「飴を買う女」などにも代表されるようにハーンが惹かれるのは親子なんですね。「雪女」も、約束を破ったら男を殺してしまって終わりという結末が普通のところを、子供のために殺さないという筋書きになっている。ハーンの生育環境が影響している部分もあると思いますが、親子関係には確かにこだわっているように見えます。さきほど三浦さんは、ハーンはなんで日本に来たんだろう、というお話されましたけど、ハーンが日本国籍を取ろうと決めるのは結婚した時じゃなくて、子供が生まれた時なんですね。親になって、日本人になるという決断をするわけです。しかも妻の籍に入るという当時としてはありえない、考えられないような形をとるわけですが、そうした決断をした理由はやはり子供の存在だと思います。

ハーンが心惹かれた「飴を買う女」、それは「親から子への絶対的な深い愛」の物語でした。実の親からそれを得られなかったにも関わらず、ハーン自身はセツや子どもたちにも惜しみない愛情を与えました。

幽霊となっても子どもを生かそうとした「飴を買う女」に涙し、また「子捨ての話」からトキとの会話を経て、自分を捨てた両親と同じことはしないと誓った今週のヘブン先生。史実の合間を丁寧に書き込むばけばけの脚本、うまいな〜としみじみと思いました。

こちらの雑誌、興味深い論説が多いのでまた今後も紹介するかと思います。

@hinata625141
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