〈らぷらすフェスタ2024〉山内マリコさん、柚木麻子さんの講演会「物語を生きる、現実を生きる〜私たちの15年〜」に行ってきました〜!人気女性作家二人の講演会とあって満員御礼!会場が昭和女子大学だったこともあってか観客の9割がた女性、若い人が多かったですね。
ほぼ同時期にデビューした女性作家であり、仲良しのお二人(マリコ、ゆずこ、と呼び合ってらしてかわいい)。お二人の作品の共通テーマでもある女性の友情の物語が、デビュー当時から15年かけてどう受容されてきたか、またお二人がどのような活動に携わってこられたかという内容で、とても興味深く、面白かったです。
お二人のデビューをざっくり振り返ると、
柚木麻子さんは、2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、2010年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。
山内マリコさんは、2008年短編「十六歳はセックスの齢」で第7回R-18文学賞・読者賞を受賞し、2012年『ここは退屈迎えに来て』でデビュー。
お二人が文学賞に挑戦してらしたころ、「とにかく女性作家は恋愛小説を書け」と言われたそう。
その背景として、まず文学界では2003年の『世界の中心に愛を叫ぶ』の大ヒットがある。世間は一大純愛ブーム。また00年代はバックラッシュの時代でもあって、若い女性のブームもヤマンバからエビちゃんへ、男性から愛される女性へ保守化した時代だった。
一方で2004年には『対岸の彼女』が出版される。「女同士の友情をミソジニーなしに描くことに成功している」と上野千鶴子教授が著作で評した作品。角田光代、唯川恵、山本文緒ら、コバルト出身の女性作家が一般文芸に進出し、その作品に流れるコバルト魂をファンがキャッチした。
2006年ディズニーの実写映画『愛しのアクアマリン』。ギャル人魚と冴えない女子たちの友情を描いた。女児向けだけど女児をなめてない。脚本は『ローカル・ガールズ』のアリス・ホフマン。山内マリコさんはデビュー作に『ローカル・ガールズ』のようなタイトルをつけたいと当時柚木さんに相談したそう。→『ここは退屈迎えに来て』になった
2012年『アナと雪の女王』はそれまで異性愛一色だったディズニーアニメ映画で初めて、女性同士の友情をメインに描いた。
一方日本の文学界は相変わらずマッチョな世界だったけど、R-18文学賞の選考委員、受賞者を中心に女性作家たちが集まって旅行したりしてたそう。柚木さんはR-18文学賞落ちたけど参加してた😂 みんなで海外ドラマの話、税理士の話をしたりして、いっぱい書いてる人もぜんぜん書いてない人もいて、自由で楽しい。
2011年の東日本大震災被災者のためのチャリティー文芸誌「文芸あねもね」を豊島ミホさんを中心に女性作家たちによって出版にまでこぎつけた。編集や校閲まで自分たちでやっていた。そのときは原稿を書くだけでなにもできなかった柚木さん、山内さんはこのときの先輩作家さんたちのやり方を見て学んだことを、2019年『エトセトラvol.2 特集 We♥田嶋陽子!』の責任編集で生かすことができた。テレビ出演のない関東地方では10年ほど姿を見ることもなかったフェミニスト田嶋陽子にふたたび光を当てた。
2022年、山内さんと柚木さんの文責でステートメント 【原作者として、映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求めます。】を公開。
最初は映像業界全体でステートメントを出す予定がいろんなしがらみがあって頓挫した。原作者は自由なので原作者だけでやろうという話に。実写化作品が大ヒットした湊かなえさん、三浦しおんさんが賛同してくれたのは大きかった。またお二人を含めニュースで作家の顔写真を使うのはNGとし、取材も出版社を通してもらうようにしたのもよかった。一方自分たちの出版界のセクハラ・パワハラにに対してはどうなんだという批判もあった。
山内マリコさんは今は日本文藝家協会の常任理事としてハラスメント相談などにも携わっているそう。
このほか質疑応答の中で印象的だったのは、7/7の都知事選とその結果、そこから吹き荒れたバックラッシュへの受け止めについてのご質問。
山内さん→長い目で見ると女性政治家へのバックラッシュは繰り返している。日本の長い停滞の原因は女性を押さえつける社会であって、世界とのギャップに気づいてきたのが今なんじゃないか。
柚木さん→男女雇用機会均等法をつくった赤松良子さんの言葉を紹介。ぴょーんは無理、シャクトリムシみたいにゆっくり少しずつじゃないと進まない。黒柳さんらover90で今もご活躍の女性たちの話を読むと少し元気が出るかも。
以上、講演会の個人的メモ起こしでした。間違いあったらすみません!
以下はわたしの雑感です。
文学の世界のこの15年のお話を聞いて、わたしも読者の一人として、かつ柚月さんたちより少し歳上なので、とくに00年代の話は、あぁそうだったと実感を持って振り返ることができた。『対岸の彼女』は直木賞受賞したとはいえ、今から考えると信じられないくらい売れたはず。そのくらいインパクトがあったのは、やっぱりずっと待ち望まれていた、大人になった元少女たちのための物語だったということだと思う。
コバルト出身の角田光代さん、唯川恵さん、山本文緒さんのほか、児童文学出身の森絵都さんや梨木香歩さん、佐藤多佳子さん、あさのあつこさんらも注目を浴びていて、SF畑出身の恩田陸さん、ラノベ畑出身の桜庭一樹さん、どこからか突然現れた三浦しおんさん、西加奈子さん、また純文学方面には小川洋子さん、絲山秋子さんらがいて、たぶん90年代にデビューした女性作家たちが一般文芸の場でパーっと花開いたのが00年代だったのかなと思う。
今思うと2004年に本屋大賞ができたことも大きかったのかなと思う。いわゆる権威的な、著名な作家が選ぶ作品ではなく、書店員さんが選んだ本がブームになる。身近な作品がフューチャーされるのが新鮮だった。権威のある高齢男性作家には評価されづらい、女性作家の作品が後押しされる一因になったと思う。
わたしはこの00年代に一番国内小説を読んでいたので、本当にリアルタイムで追いかけるのが大変なほど女性作家の素晴らしい作品がたくさん出ていたのを覚えてる。バックラッシュの時代に逆行するように、文学界においては女性作家の存在が権威と読者の間でしっかりと存在感を根付かせた時代だったのかもしれないな〜なんてことを思いだす。
R-18文学賞の女性作家の集まり、そういうのがあるって伝え聞くだけでもうれしくなっちゃうな。エトセトラの責任編集もまたやってほしい!
他の方の質疑応答もフェミニズムへの感度が高くて、若い世代頼もしい〜!とうれしくなっちゃいました。
あとメモの最後にリンク貼った柚木麻子さんによる赤松良子さんのお話が素晴らしくて、
帰り道、この国の百年前を、そして百年先も続いていく「長い列」を思いながら、夕焼けの急坂を転げ落ちないように下っていった。課題は山のようにある。大先輩にだって失敗も妥協もあるのだ。でも、その列の最後尾に私も加わりたいなと思う。あとに続く人たちのために「ちょっとマシ」にしていく精神を今日も地道に積み重ねながら。
この最後のセンテンスに泣いてしまうんですけど、ほんとに全文素晴らしいのとオーストリアであつらえたお帽子のコレクションとか赤松さんのお写真もめちゃめちゃ素敵なのでぜひ読んでください🙏