責任のゆくえ

hinata625141
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公開:2024/4/15

劇場はコナンで大混雑のなか、わたしはやっと「オッペンハイマー」を見てきた。ちょっと今日は睡眠不足だったので3時間の映画は厳しいかなぁと心配だったのだけど、来週になると上映時間がますます減って見られない気がしたのでがんばって行ってきた。結果、行ってよかったです。3時間、ぜんぜん眠くもならず楽しめた。個人的にノーランにそんなに思い入れないし見てない作品のほうが多いけど、本作のバランス感覚は好きだなと思った。

あと個人的に、戦争協力の責任を個人がどう追うべきか、ということをちょうど考えていたのでけっこうドンピシャなテーマだった。というのも先日年表をポストしたときにおおむねよいかんじの反応を頂いたのだけどその中で一つ、「婦人活動家たちが戦時協力したことを言及しないのは不自然」というコメントがあって、う〜んそっかーでも年表だしな〜年表にそこまで書くべき…?と思いつつこちらからのリアクションは差し控えた。

個人的にはあんまり一個人の戦争協力のことを責める気持ちがない。だってあれだけの思想統制、言論統制が行われていたあの時代に反戦を貫いた山川菊栄はたしかにすばらしいと思うけど、一方で官憲に睨まれた伊藤野枝がどうなったかも忘れちゃいけないと思う。

あと『いだてん』を書いてたころのクドカンがインタビューかコラムかで「この当時のほとんどの日本人は戦争に負けるとは思ってなかったってことを忘れないようにしてる」と話していたのを読んで、ほんとそうだよな〜と思ったことも思い出す。開国以降、太平洋戦争までは基本的に日本は勝ってたし、勝つと景気も良くなるし、本土に攻め込まれたこともない。負けるってことがリアルに感じられなかったんだろうなと思う。

だから現代から見ておかしいって思うことも、当時はわからなかったってことはたくさんあると思う。その当時を生きていた人にしかわからないことも、たとえわかっていたとしても自分一人の力ではどうしようもなかったことも。

『オッペンハイマー』では彼が原子爆弾を作ってしまったことへの自責の念も描かれたけど、それよりも〈国家に利用された科学者〉という側面がつよく描かれていたと思う。天才科学者として国に選ばれ、戦争における勝利のために研究も人生も捧げ、称賛も得た。しかし戦後は共産主義への強い弾圧の時代のなかで彼もまたスパイ容疑をかけられ、事実上の公職追放処分を受けた。

原子爆弾については、これはオッペンハイマーに限らずだけど、多くの科学者がユダヤ人であったことからぜったいにナチス・ドイツより早く原子爆弾作らなきゃ!という焦りがあったのもわかるし、新技術はいつの時代も戦争に利用されるし、オッペンハイマーがやらなくても誰かがやっただろうし、……と考えるとオッペンハイマーの責任は限定的だろうと思う。そのように観客を導きながらも、彼自身は罪の意識に苛まれているというシーンを繰り返し描いた脚本だった。

オッペンハイマーが「自分の手が血塗られているように感じます」と言ったとき、大統領が「本当に手が血塗られているのは、(原子爆弾を)落とす、と決めた自分だ」と不機嫌そうに返したシーンがあったのはよかった。そう、原子爆弾を落とすことを決断したあなたの手こそ血塗られている。

わたしは戦争に関わった一個人を責める気はないけど、負けを受け入れられず自国でも他国でも死者を山ほど生み出した大日本帝国の中枢と、和平工作ルートをとらず事前通告もなく原爆投下を決断したアメリカのトルーマン政権は責められるべきだと思う。権力には責任が伴う。時効もない。

わたしはこの映画を見て、戦争状態の国家が個人に及ぼす影響の大きさとその罪深さについてすごく考えさせられたし、日本とは違う視点での太平洋戦争終結の前後を見られてよかった。違う視点を疑似体験できるっていうのはほんとうにフィクションの良さだと思う。実際の被爆地を映像で描かなかったことはいろんな思惑があるんだろうとは思うけど、日本だってアジアへの加害を描く作品は殆どないわけで、そこ強めに言える立場でもなくない…?という気持ち。もちろん加害に向き合わない姿勢が良いとは思ってないです。

というわけで見てよかったです!キリアンがよかったのはもちろん、レミ・マレック出てたのうれしかった!スポット的に良い役でしたね。RDJもよかったけどほら、アカデミー賞の振る舞いがあるので減点です…笑

映画終わりにお腹ぺこぺこで食べたアサリとホタテのジェノベーゼ。おいしかった!

@hinata625141
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