はじまりましたね〜、ばけばけ! ティザー映像を見たときからめちゃめちゃ期待してたんですが、その期待をひょいと超えてきた第一週、すでに夢中です!

光と影の演出にこだわった映画のような映像、川島小鳥さん撮影の二人の思い出アルバムのような幸せなOP、ハンバートハンバートさんのオリジナリティの高いしっとりとしたテーマ曲、柔らかくもかわいらしい劇伴、ヒロイン・髙石あかりさんをはじめとしたチャーミングな役者さんたち、松野家を覗き見してる近所のおばちゃんたちのような蛇と蛙のナレーション。そのすべてが本当に大好きなのですが、一番驚かされたのは切なさと笑いの散りばめられたあたたかい脚本です。
このドラマは、うまくできない人、をやさしく見つめます。
明治になってもなかなか武士であることをやめられず、上手い話に乗っては大借金を背負ってしまう父・司之介。気高き武士の妻であり、トキにも武士の娘としての心得を説く雨清水タエ。もう武士なんて笑われる存在なのに。文明開化の世においては二人は完全に時代遅れの人。
だけど、かつての職場であった松江城をなんとも言えない表情で見つめる司之介の横顔、そして武士を辞めて商売を始めるという夫の決断に何も言えないタエの孤独な背中を、このドラマは丁寧に見つめます。それを見ていると、うまく時流に乗れないことがそんなに悪いことなんだろうか。立ち止まって困窮してしまう人たちが自分とは違うと言えるだろうか。貧しい人や弱い人を切り捨てる社会は今とつながってるんじゃないか。そんなことを考えさせられます。
もちろん農家であれ武家であれほとんどが世襲で、生きる場所も職業も選べない封建的な時代はたくさんの人を不幸の上に立ってたし、それは解放されるべきだったとは思います。だけど物心ついた時から、武士とは、武士の妻とは、と教え込まれてそれしか知らなかった人たちが明治の世に突然放り出されるのも、やっぱり気の毒ではある。
借金の方に売られて無理やり川向こうに連れて行かれる女たち、「おなごが生きていくには身を売るか男と一緒になるしかないんだけんね」と冷めたように言う遊女のなみ。社会の歪みがまずはより弱いものを食い物にするのは今の時代も同じ。
そんな明治の世の地獄のようなしんどさを垣間見せるこの朝ドラが、信じ難いことに、……めっちゃめちゃコメディでもあります。ほんとに毎朝楽しい。時代を考えればファンタジックではあるけれど、家の中がフラットなんですよね。ダメな父に愛情持ってつっこむ娘とそれにのっかっちゃう妻おフミさん、息子には手厳しいが孫娘トキには全面降伏の勘右衛門さん。脚本のふじきさんの書く、愛と笑いに満ちた会話劇に彩られる松野家のシーン、最高です。シリアスな現実をコメディという甘い糖で包んでくれる物語。
そしてヒロインが髙石あかりさんにバトンタッチした金曜の回を見て改めて、ほんっとーにこの朝ドラに髙石あかりを選んでくれてありがとう!!!とNHK大阪に向かって手を合わせたくなりました。髙石あかりのコメディは絶品なんです!!!インタビューなどを読むと髙石さんは過去2回ヒロインオーディションで落ちたそうだけど、いやむしろ落としてくれてありがとう、『ばけばけ』こそが髙石あかりを待っていた……!(泣)
そして第一週の月〜木までという短い期間でしたがちびおトキちゃんを演じた福地美晴ちゃんもめちゃめちゃよかったです。台詞回しや仕草がとにかくかわいらしくて毎朝メロメロでした。それに子役にしては落ち着き払ってるなぁと思ってたら、スパイファミリーの舞台でアーニャを演じてたそうですね。この年で舞台を踏める子役さんってやっぱり肝が座ってるのかもしれない。またどこかでお会いしたいです!
そして第一週の影の主役といえばもちろん司之介さんを演じた岡部たかしさんで、コメディパートはもちろん情けなさを見せるのも岡部さんならではの憎めなさがあってほんとに大好き。みんな大好きだと思う。脚本のふじきさんとは長いお付き合いのようで、ここの信頼関係もこのドラマの一つの土台なのかなと勝手に思ってます。
それからおフミさん役の池脇千鶴さん!私は『ジョゼと虎と魚たち』が魂に刻まれてる女なのでヒロインのお母さんが彼女であるだけでも本当にうれしいですが、ひさしぶりにじっくり聞く池脇千鶴の声の柔らかさ、セリフの間合いのリアルさに毎朝痺れてます。
そんなこんなで初週から褒めるところしかないな!『虎に翼』以来の毎週レビューを書きたい気持ちがふつふつと沸いてます。続けられるかわかんないけど。とりあえず来週も楽しみです!
●ばけばけな本(1冊目)
『小泉セツとハーンの物語 小泉八雲「怪談」誕生のひみつ』(三成清香:著/長田結花:さし絵)
実在の人物のことを知りたくなったときはわたしは児童書の偉人伝を入口にすることが多いです。ウィキペディアよりは詳しいし、図版や年表もあるし、何より読みやすい。
この本は最近出版されたので朝ドラ合わせだと思いますがそのぶん、ちゃんとふたりの人生を等しく扱っていて、小泉セツを「八雲の妻」ではなくひとりの人間「小泉セツ」として見つめてくれているのがとてもよかったです。
日本語の読めないハーンさんは日本の物語を知るためにセツさんを頼ったけど、本の読み聞かせではなくセツが自分の言葉で語ることを好んだそう。それってまずは原型となる話をセツが自分の中に落とし込み、解釈してそれをハーンに語っていたということで、さらにハーンはそれを海外向けに紹介するため英語で「再話」していたとのこと(「再話」とは正確な翻訳ではなく、海外の人にも受け入れられやすいよう改変を施した物語であるとのこと)。
つまり小泉八雲の名前で出された日本の怪談は、まずはセツ、次にハーンという、性別も言語も人種も異なる二人の解釈を経て生まれた物語であって、それってもう二人の関係性の結晶のようなものだったのかもしれないと思ってきゅんとしました。
「物語」も「解釈」も自分を反映してしまう。その意味では怖い一面もあるのだと最近はよく思うのだけど、今回の朝ドラでは「物語」と「解釈」のすばらしさを感じることができるんじゃないかな、そうだといいなと思ってます。
↓立ち読みできるそうですのでぜひ。