第二週「ムコ、モラウ、ムズカシ。」
「日に日に世界が悪くなる」という主題歌の歌い出しにぶっ刺されることの多い昨今ですが、だからこそOPの二人の写真やこの朝ドラのコミカルさに救われてる日々です。ありがとう、ばけばけ。ありがとう、落ち武者。ありがとう、天才コメディエンヌ髙石あかり様🙏

さて今週はおトキちゃんのお見合い大作戦というメインストーリーの陰でじわじわと解き明かされたのはトキの出自という謎でした。
おフミさんと雨清水タエの間にときに流れるピリッとした空気の流れた月曜日。雨清水夫婦がなぜ自分を娘のようにかわいがってくれるのかと聞くトキに「無類の親戚好き」で無理やり誤魔化す火曜日。トキと三人だけで話したいというタエと傳に「あの あの話では」と松野家が慌てふためく水曜日。赤子のトキを迎え入れた日の幸せそうなフミと司之介、その背後で感情を見せないタエの回想シーン、そしてトキの祝言を見守りながらふたたびおフミとタエのまたしてもちょっとピリッとしたシーンで締める金曜日。
まだ完全に解き明かされてはないですが、視聴者の興味を引き、想像を喚起させる情報の出し方だったの、良かったな〜と思います。
想像を喚起させるといえば、今週から登場した三之丞もそう。どんなに近くにいても目も留めてもらえない、声をかけられることもない三男。まるで実の親子のように気にかけ甘えさせるトキへの愛情を遠くからぼんやりと見る三之丞。言葉ではなく無言の演技だけであれこれと想像させてくれる。
一方、メインのお見合い話ですが、この当時の結婚は家と家の結びつきの問題だからと当事者すら蚊帳の外で、女が「お茶を出した瞬間、顔をちらりと見た瞬間すべてが決まる」というのが現代から見ればドン引きシステムです。蛇と蛙のナレーションが「やーねーこの時代のお見合いって!」と軽快に視聴者のガス抜きしてくれる脚本が上手い。
だけどそれにとどまらず、どうやらうまくいきそうな二度目のお見合いで、おトキ自身がお茶を出した瞬間に戸惑い、その思いを素直に口にすることで当時の「当たり前」を崩します。
この時代、そもそも人権という概念すらあいまいで、女性差別なんて誰も思わない。「おなごが生きていくには身を売るか男と一緒になるしかないんだけんね」と冷めたように言う遊女のなみ、自分の人生を「人柱のよう」と諦めたように言うサワ。そういうものなのだと、生まれつきの理不尽を諦念で包んで生きるしかない時代。
そんななかでトキは頭ではなく心で、自分の人生が他者によって決められてしまうことを「怖い」と感じ、それをよりにもよって見合いの場でそのまま口に出してしまいます。本来ならば女が口を利くのも許されない場で。だけど雨清水家からも松野家からもたくさんの愛を受けていたトキだからこそ、大事な場面で「怖い」と、自分の素直な感情を口にすることができた。その事実にうっと泣きそうになってしまいます。
このドラマ、「この時代にこんな家族はありえない」を乗り越え、「こんな時代でもこんな家族があってほしい」という希望を見せてくれる。
「おかしい」と異議を唱えるのではなく、「怖い」と立ちすくむトキの迷いを受け止めてくれた銀二郎。そんな二人の初デートは怪談・松風の舞台である清光院。ともに怪談好きであることが判明し一気に気持ちが近付いたタイミングで吹く突風は、松風の嫉妬かお節介か。ここでもまた、目に見えない「なにか」を説明することなく受け手に想像させてくれます。
『ばけばけ』の語りすぎない、ちょっと不思議な物語の余白のあるところが一番好きかもしれない。そう思った第二週でした。
●ばけばけな本(2冊目)
『生きづらい明治社会 不安と競争の時代』(松沢裕作)
こちらはフォロワーさんがオススメされていたので早速読みました!
貧しい人々にとって明治時代はどういうものであったのかということが歴史や経緯をわかりやすく説明してあって、こういうのは教科書でも教えられない、大河ドラマなどでも抜け落ちがちな視点なのでとても面白かったです。
ほぼクーデターによって成立した明治政府は信頼度が低く、経済システムの大幅な変更によりまだうまく舵を取れてなかった政府が引き起こすインフレとデフレの荒波によって困窮する民衆が一気に増えた時代。政府からの救済策はほとんどない。
そんな不安定な社会の中で「成功したものは正しく努力したものであり、失敗したものは努力をしなかっらダメ人間である」という「通俗道徳」の教えが広まり、そのわなに人々はハマっていきます。
著者は明治時代も現代も、①「近代的な資本主義」という同じ仕組みの社会であること、②これまでの仕組みが壊れた、壊れつつある社会であり、かつ、政府がカネを使わない方向の経済政策を取っていること、などの共通点があると指摘します。こうした資本主義経済の仕組みのもとで不安が増していく社会の中では、一人ひとりががんばるしかない「通俗道徳」のわなに簡単にハマってしまうということも。
「通俗道徳」、これって現代で言うところの「自己責任」ですよね。現代ではもちろん生存権があり基本的人権が憲法に記されている。生活保護というシステムもあります。だけど現代でもそれを受給する人たちを叩く人たちのメンタルはおそらく、明治時代の貧困者に向ける冷たい視線と同じ。
また、この本では一章まるまる使って、この時代の貧しい家の女性たち、「家」のために働かされる当時の女性たちの苦難について書かれてます。まさに『ばけばけ』でも描かれたように、家の借金のために無理やり色街に売られる娘たち。またトキの職場の雰囲気は楽しそうですが、当時の女工たちの職場待遇は厳しく、また契約を結ぶのも給金を受け取るのも働き手の女性でなくその父親(戸主)……。まさにサワの言う「人柱」そのもの。
格差と分断の進む現代において切実に、明治時代から学ぶべきことは多いと教えてもらえた一冊でした。読んでよかったです!
(※上にリンクを貼った公式サイトから試し読みページに飛べます)